※2009年8月12日のYahoo!ブログを再掲。
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本書は、岩波ジュニア新書から10年くらい前に出版されている。「世界史Aを学ぶ人は必読!」なんて書かれていて、中学生とか高校生向けに書かれたらしいけれど、大人が読んでも十分に面白いし、勉強になる。
だいたい最近の新書はハズレ(タイトルがキャッチーで中身は空っぽ系)が多い。ジュニア新書といって侮る事なかれ。濃密で丹念で分かりやすい。良書だ。
本書は、砂糖という「世界商品」をベースに、砂糖にまつわる世界史を丁寧に描いている。ヨーロッパ、カリブ海、南米、北米と飛び回り、大航海時代、植民地、奴隷制度、産業革命とダイナミックに時代を駆けめぐる。
「砂糖あるところに奴隷あり」という言葉があるように、昔、砂糖を作るためには、熱帯で肥沃な土地と膨大な労働力が必要となった。だから、アフリカから大量の奴隷がカリブの島連れてこられ、砂糖ばかりを作らされた。
大量に作られる前は、高級な嗜好品だった砂糖だけれど、プランテーション&奴隷の労働力で、大量生産に成功すると、砂糖は文化になる。特にイギリスで。
イギリス人の紅茶好きはよく知られるところ。1999年には「紅茶の正しい入れ方について仕様書を作成したこと」についてイグノーベル文学賞を受賞するくらい。紅茶へのこだわりはものすごい。
紅茶は茶葉と砂糖から作られる。でも、イギリスではどっちも生産されていない。茶葉は東の果てのアジアから、砂糖は西の果てのカリブ海から輸入した。どれだけ当時のイギリスの力が強かったか分かるだろう。
紅茶はイギリスのものっていうイメージがある。でも原産地じゃないし、民衆が飲み出してまだせいぜい200年くらい。ほかにもぼくらがヨーロッパの原産って誤解しているものがある。トマトやジャガイモだ。実は中南米が原産で、16世紀にヨーロッパにやってきた。それ以前って何食べてたんだう・・・。
ということで、モノを通して世界史を俯瞰すると大変分かりやすい。食べ物だったらなおのことイメージしやすい。その昔、その土地でどんなものを食べたのか、その食べ物はどこからもたらされたのか。そういうことを考えていくと、当時の人々の生活をありありと感じることができる。
そして、奴隷制度がいかに多くの人を不幸にし、その影響がいかに根深いかが分かる。アフリカやカリブが今でも貧困から抜け出せないのは、砂糖の魅力に取り憑かれたことも一因だろう。
世界史を学び、読者たる中高生に対して、現代の課題を突きつけるあたりが、本書のもう一つの優れた点だ。
さて、本書で初めて知ったことがたくさんあった。メモしておこう。
- 初めてチョコレートを飲んだ王様は、カルロス1世である。
→カルロス1世やるなぁ。王様が飲むまでにいろんな人が毒味させられただろうね。 - チョコレートの売り子の声がうるさかったので、フリードリヒ大王はチョコレートの行商を禁止した。
→さすが大王。やることが極端だ。 - カリブでサトウキビが大量に生産され、残った絞りかすからラム酒が作られた。
→ラム酒の原料がサトウキビっていうのは知っていたけれど、砂糖のプランテーションとはつながってなかった。考えてみればそうだよね。 - バブル経済の語源は、1720年にイギリスで起こった投機ブームで、株価が急騰・暴落した「南海泡沫事件(South Sea Bubble)」に由来する。
→300年経っても懲りてない。やっぱりヒトはバブルが好きなんだ。おそらく生物学的に。 - 1773年の「ボストン茶会事件」と、お茶を棄てたことの意味。
→イギリスの象徴とも言うべき紅茶を海に投げ捨てた象徴的な事件。もうイギリスなんて知らねぇよ。俺らはアメリカ人だ!というアメリカ独立への兆候が見えてくる。紅茶だからこそ関税が最後までのこったし、その紅茶をボイコットすることにこそ意味があった。
うーむ。
その昔、登山をして、水が底をつきかけた。ゴールまで2時間はかかる。その状況で、リーダーが残りの水を沸かして紅茶にして、砂糖をたっぷり入れて飲んだ。そんなことを思い出した。目的地に到着してぐびぐび飲んだ水よりも、最後の紅茶の味が思い出深い。
「紅茶の正しい入れ方」でマリアージュの紅茶を飲みたくなった。
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(感想文の感想など)
この本をきっかけにして、○○の世界史という本をいろいろと読むことになった。
また再掲することになるだろう。たぶん。
長らく紅茶を飲んでないな。たまにはゆっくりと紅茶を味わいたい。