※2011年6月9日のYahoo!ブログを再掲。
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前書のヤバい経済学は、この読書感想文企画を始める前に読んだことがあってとっても面白かった。相撲には八百長(正確には勝ち星の貸し借り)があることがデータでははっきりしているときっぱりと断言していたのが印象的だった。現実に八百長していたことがメールのやり取りで明らかになったのは最近のこと。
本書はその続編。
ヤバい経済学(Freakeconomics)って言うのは、
経済学的アプローチを、悪ガキみたいにヤバい好奇心に掛け合わせる
っていうことらしい。
社会学的アプローチにすると、ヤバい社会学ってことかな。まあ、あんまり学問の区分けを気にせず、ヤバい領域に数学や統計学を持ち込むという非常にスリリングな結論が導き出されるっていうのがよく分かる。
本書は、その数学が戦略を決めると結構似ている。その本では、絶対計算により医師の裁量権の危険性が顕になり、この本では医師の不衛生さが顕になった。とはいえ、本書の方がぶっ飛んでいる。テーマやターゲットがいっそうヤバい。第1章からしてアメリカの売春の経済学なのだ。
本書で印象的だったことを2つ挙げてみよう。
1つは、インテレクチュアル・ヴェンチャーズ(IV)について。知財に関係する部署に異動となり、そういったことにセンシティブになっていたので、特に印象的だった。
インテレクチュアル・ヴェンチャーズ(IV)は発明企業である。研究所には、いろんな装置に加えてありとあらゆる種類の知性や科学者、謎解き屋の集まりが詰めている。
発明企業。名称がカッコイイ。発明で世の中を変える。『現在扱っている特許は2万件を超える』とのこと。ヴェンチャーに投資するヴェンチャー・キャピタルとは違い、会社自体も発明している(もちろん投資もしている)。
IVは知的財産の大衆市場を初めて作り出したと評価するのが正しい。
そうな。実感としてはよく分からない。そんなIVのトップが、元マイクロソフトの最高技術責任者であるネイサン・ミアヴォルド。
「ネイサンより賢い人なんて1人も知らない」ゲイツはかつてそう言っている。
というほどの傑出した人物だ。IVは、地球温暖化を防止する方法、マラリアの蚊を倒す方法、エイズを撲滅する方法、ハリケーンを無くす方法を考えていて、社会に役立つことを意識している。その方法は、どれも安価で実現可能性が高いものばかり。国家プロジェクトのように、多くの賃金と人員を投下し、結局は何の成果も出ないことが多いのとは、対極的だ。
IV社のことをもうちょっと知りたい。
もう1つは、サルと貨幣。エサと交尾くらいにしか脳のない原始的なサルに貨幣の意味を教えるという実験が行われた。当初は、食べられないコインを飼育員に全力で投げつけていたサルも、次第にエサと交換できることが分かるようになって、コインを大事にするようになる。
コインと交換して、勝てばブドウ2個、負ければブドウ1個というゲームをする。で、ゲームには2パターンある。
ゲーム1:最初にブドウ2個見せて、勝てばそれを渡し、負けたら1個減らす。
ゲーム2:最初にブドウ1個見せて、負ければそれを渡し、勝てば1個増やす。
あなたなら、どっちのゲームに参加したいと思う?
もちろん、数学的には全く同じ。しかし、心情的には…。そう、損失の方が強く印象に残る。ということで、原始的なサルもあなたと同じく、ゲーム2への参加が多かったのだ。
というところで、実験は終わるはずだったののに、おかしなことになってくる。サルがコインの強奪を試みたのだ。コインに価値があると分かり、ヒトが銀行強盗を働くように、コインの強奪を行った。貨幣がサルを変えてしまったのだ。
そして、これで終わらない。あるオスザルが、空腹そうなメスザルにコインを渡した。サルには思いやりがあるのだと研究者が良い方に解釈した直後、交尾が始まった。
思いやりでもなんでもなかった。彼が見たのは、おそらく科学史上初めて観測された、サルの売春だった。
ということで、サルの世界に貨幣が導入されたところ、強奪と売春が起きた。ヒトの世界も同じかも知れない(きっと同じだろう)。
本書のキモは、『人は誘因で動く』ということを真理にしていることだ。そして、
人はインセンティブ(誘因)に反応する。ただし、思ったとおりの反応ではなかったり、一目でわかるような反応ではなかったりもする。だから、意図せざる結果の法則は宇宙で一番強力な法則の一つである。
経済学の真髄をまたしても思い知った。
さてさて、その他に本書で知ったことを挙げておこう。
ウガンダでは5月に生まれる子どもは、目か耳か学習能力に障害を抱えてくる可能性が20%も高い。なぜでしょう。それは、『断食月にお母さんのおなかにいた赤ん坊は、発育に影響が出る可能性が高い』からだ。恐るべしラマダン。妊婦は断食しない方が良いね。
もう1つ、有名なゲーム理論の『囚人のジレンマは、もともとはアメリカとソヴィエトが核兵器を持ってにらみ合っている状態を詳しく理解するために発明されている』とのこと。そうだったんだ。アメリカとソヴィエトが囚人に擬人化されていたなんて…。
シートベルトの着用率は1980年代半ばには21%、1990年には49%、1990年代半ばには61%になり、そして今日では80%を超えている。
シートベルトは当初は全然、人気がなかったんだね。そしてチャイルドシートはあんまり安全に役立っていないっぽい。でも設置しないとうるさいんだよね。
ということで、超ヤバい経済学は大変面白かった。この手のシリーズはわくわくしちゃうね。
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(感想文の感想など)
インテレクチュアル・ヴェンチャーズを改めて調べたけれど、今ではほとんどニュースになっていない。何かを達成できたという話も聞かない。
ヤバい経済学は映画化しているらしい。見てみたい。