40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文14-60:夜の経済学

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※2014年12月15日のYahoo!ブログを再掲。

 

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とにかく印象的かつシンプルなタイトルに惹かれて読んでみた一冊。英語では、nightnomicsとなっている。○○ノミクスっていうのがちょっと流行りになっているかも。本書は、かの有名な「ヤバい経済学」の日本版的な位置づけ。日本独自?のフーゾク産業に切り込んでいて、現実をよく知らない私にとっても、なかなかに興味深い。

著者の一人は荻上チキさん。新書、日本の難題をかたづけよう(感想文13-39)の編者。データと実証を重んじるという姿勢は、私と方向性が近い。もう一人の著者は飯田泰之さん。経済学者(明治大学准教授)だ。

本書は、計量経済学的手法を用いて日本の夜の経済に光を照らすという、なかなかにチャレンジングでマジメな企画なのだ。

気になる箇所を挙げておこう。

フーゾク産業の市場規模は、(うわさでは)年間5兆円とも8兆円とも言われるようだ。他産業-百貨店の売り上げが年間6.1兆円、旅行業が年間6.7兆円といった数字と比較すると、フーゾク産業は日本の一大産業ということになる。

本書で改めて市場規模を推計した結果、

フーゾク嬢30万人前後、市場規模3.6兆円以上の巨大市場

とのこと。一大産業だ。30万人の労働者がいるということは、その何倍もユーザーがいるということ。しかもこの数字は、キャバクラやガールズ・バーを除いた数字だ。

日本では売春のすべてが禁止されているわけではない。日本で禁じられているのは、管理売春と公衆の目に触れる方法による売春勧誘(立ちんぼ型の単純売春)だ。日本以外の多くの国においても、これはだいたい同じ。

こういう法の整理について初めて知った。売春と自由恋愛は客観的に区別困難である。人間の欲望と規制が、業態を区分けする。店舗型と無店舗型などの類型も初めて知った。店舗型は初期投資が必要なので新規参入が難しい。一方で、無店舗型は新規参入は容易であるが、その分、競争も激しい。

ワリキリ女性の高校進学率は8割を切っている。大学・短大への進学経験があるのは8%にすぎない。

ワリキリという用語も初めて知った。ワリキリ女性は低学歴であり、移動範囲は狭い。こういう地道なデータ収集には頭がさがる。やっている方がノリノリなのかもしれないけれど。

僕らはもっともっと、さまざまなデータをとらなくちゃいけない。なにせ現代人でしか、現代のデータを未来に残すことはできないんだしね。大げさに言えば、データを残すことは未来に対する義務でもあるんじゃないかな。

データを残すことは未来に対する義務という言葉は印象的。巷ではビッグデータなどと言われているが、今回取り上げているようなデータは、集めようにも集められないのではないだろうか。そして、データを残すことだけでなく、可能な限り実証することで未来が作られていくと思う。

失業率が高まれば、福祉から排除された者が自殺や犯罪へと誘導される。今さらながらに不安感を抱いた為政者が、包摂ではなく隔離に、予防ではなく厳罰に、ケアではなくシバキにふんだんに予算を使うべきと主張する。

この記述は生活保護のことだ。過度な自己責任論は、貧困者を追い込むことになる。冷静にデータを集め、実証することの意義がここにもある。

その他に印象的だったのが、あとがきに書かれていた『御用若者』という言葉。どの方かは本書でも明記されていないので、あえて言いません。「若者は、現状を否定したくないから逆説的に幸福だと表明する」と主張しているが、本書によると、若者はちゃんと未来に不安を抱いていると主張する。

私は、議論のスタート地点を作ったという意味で御用若者の役割は大事だと思うが、より詳細に分析した結果が、その後の政策に反映されることがより重要だと思う。結局は、役人や政治家に都合の良い「御用若者」が作られ、利用されてしまうことが問題であり、それを否定できるのはデータと実証だけだ。

いわゆる御用学者は、政策の正当性を保証する権威を付与する機能を持っている。他方で、御用若者は、プロ市民という言葉と同じように、一種の典型的な市民や若者の代表者であるかのように振る舞うことが義務付けられている。御用若者が年をとり若者でなくなったら、どうなるのだろうか。初老の少年隊みたいなものか。

本書を読んだ動機の一つに、どのようにデータを収集するのだろうかという疑問があった。フーゾク雑誌を情報源にするという方法にはなるほどと思うと同時に、論文でデータ元を記載するのが気恥ずかしくないのだろうかという心配も起きる。まあ、そもそもテーマがピンクなテーマなので、気恥ずかしく思う人は、そんなテーマを選択しないんだろうけれど。

本書では様々な分析結果が示されている。日本社会に存在する夜の顔。本書を通じて、カネと欲望と規制が織りなすカラフルな素顔を垣間見ることができるだろう。

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(感想文の感想など)

「売春と自由恋愛は客観的に区別困難」であることにより、パパ活が行われている。仲介がない分、キャバクラよりも安価であれば、パパ側にとっても活動する女性にとってもメリットがあるだろう。営業活動にコストがかかったり、危険な目にあった場合に助けてくれる組織がないといった、デメリットもあるだろうが、それらを天秤にかけた結果、こうしてパパ活市場は活況しているのだろう。

日本版のヤバい経済学が出て欲しいのだけれど、なんで出てこないのだろうか。