40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文16-15:しんがり 山一證券 最後の12人

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※2016年5月9日のYahoo!ブログを再掲。

 

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見てないけれどドラマ化したのでわりと有名な本。

ウィキペディアによると山一證券

野村證券大和證券日興證券とともに日本の「四大証券会社」の一角にあったが、不正会計(損失隠し)事件後の経営破綻によって1997年に廃業

とある。

1997年はちょうど私が大学に入学した年で、とにかく世情が暗い時期だったように記憶している。山一證券の廃業は、当時、大きなニュースとなり、内定をもらっていた学生が途方に暮れるといったことも話題になっていた。

今となっては大きな会社が潰れるとか、合併するとか、外国企業に買収されるという事例は珍しくないが、私が記憶している大きな会社が潰れた最初の事例はこの山一證券だ。

会社が消えた日(感想文15-07)では三洋電機が消えたことを描いている。会社が消えても従業員たちは新たな職を手にし、第二の人生を踏み出すたくましい姿が印象的だった。

本書では、むしろ消える会社の後始末をした12人について描かれている。着眼点が面白い。創業者たちは華々しく描かれ、賞賛されるが、こうして会社を畳む仕事、そういう役割の人たちは陽の目をみないのがほとんどだ。

著者は、清武英利さん。あの「清武の乱」の清武さんだ。ウィキペディアによると

20111111日に起きたプロ野球チーム「読売ジャイアンツ」の運営会社「株式会社読売巨人軍」球団代表清武英利による、同社取締役会長渡邉恒雄への告発に関する問題である。清武はこの問題を理由に、同月18読売巨人軍におけるすべての職を解任されている。

とのこと。

清武さんも組織と個人の関係に悩み苦しんだ人間の一人だ。そういう苦く辛い経験があるからこそ、こういう作品を描くことができるし、関係者が口を開いてくれたのだろうと思う。

本書で気になった箇所をまとめておこう。

会社は菊野のように同調しない人間を排除する組織である。抵抗する者を中枢から追い出し、同調する人間を出世させていく。この「同調圧力」という社内の空気のなかで、時には平然と嘘をつくイエスマンを再生産していく巨大なマシンでもある。

上に立つ者の心得『貞観政要』に学ぶ(感想文10-24)は、諫臣という装置を設けることの大事さを示していた。往々にして組織のトップは、周りがイエスマンばかりになり、裸の王様になってしまうという事態が起きやすい。うちの会社も似たようなものだ。

「会社のため」と自分に言い聞かせ、不正に手を染めたのだ。サラリーマンは正義感だけでは生きていけるわけではない。会社のなかには法律だけでは割り切れない何かがある。

不正がなぜ起きるのか。起きてしまうのか。危険な橋を渡ろうとするインセンティブは何か。

再就職は否が応でも社員たちをレースへと駆り立てていく。会社に踏みとどまって調査にあたることは、やはり貧乏くじを引くことであった。

会社がなくなると、必死に再就職先を探すことになる。家族を養わなければならない人は、我先にと新しい仕事を見つけたいだろう。そんな中で会社に残った人たちがいたのだ。

皮肉なことに、破綻という非常時になって本社に乗り込んだのは、「場末」とも「姥捨て山」とも陰口を叩かれた組織の人々である。彼らは、最後になって、清算と社内調査というけじめの表舞台に登場した。

清算と社内調査という後ろ向きな仕事に真摯に向き合った人たちがいる。どうして不正が起きたのか、どうして会社が潰れなければならなかったのか。こういった事実が明らかにならないと、ガバナンスやコンプライアンスという分かりにくい横文字の概念がきちんと根付かないのだと思う。

たぶん、会社という組織には馬鹿な人間も必要なのだ。いまさら調査しても会社は生き返るわけではない。訴えられそうなその時に、一文の得にもならない事実解明と公表を土日返上、無制限残業で続けるなど賢い人間から見れば、馬鹿の見本市だろう。しかし、そうした馬鹿がいなければ、会社の最期は締らないのだ。

会社の最期を締める仕事は、カネにならないし、時間もかかる。感謝もされないし、賞賛もされない。でもけじめとして必ず必要な大切な仕事のはずだ。

会社破綻の幕引きに立ち会うことで否も応もなく、自分にとって会社とは何であったのか、働くことは何であるのかを、時間をかけて真剣に考えることになった。

サラリーマンの一人として、仕事や会社や組織について考えることがたびたびある。会社に長くいると、仕事は増え、複雑化し、責任は重くなる。経営者や上司からいつも正しく理解を得られているというわけでもない。

彼らの生き方はサラリーマンの人生の糸をよりあわせたようなものであった。私たちと無縁なものではない。言葉を変えれば、彼らの姿は苦しい時代を生きるあなたにもきっと重なっている。

確かに今は苦しい時代なのかもしれない。今日より明日が幸せになるという実感は持てない。

働いている会社が無くなるかもしれないという不安は、今の時代なら誰しもが抱いていることだろう。会社の存続や消滅に関わらず、環境が大きく変わることをこれから幾度と無く経験することだろう。

環境の変化に適応し、生き残る。ある種、生物の本能に近い行動原理だが、その行動原理に反するようなしんがりを務める人間がいないと、社会そのものが大きく発展しないのかもしれない。

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(感想文の感想など)

読み返すと、この頃は(も?)仕事と組織に悩んでいたようだ。

清武英利さんは他にも本を出しているようなので、読んでみようかな。