40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文13-38:黒王妃

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※2013年1月7日のYahoo!ブログを再掲
 
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カポネ以来の佐藤賢一さんの小説。久しぶりに舞台がフランスの小説を読んだ。
主人公は、カトリーヌ・ド・メディシス(1519-89)。結構長生きしてるなぁ。ウィキペディアによると『フランス王アンリ2世の王妃。フランス王フランソワ2世、シャルル9世、アンリ3世の母后。(中略)。1559年に馬上槍試合での事故でアンリ2世が死去し、長男フランソワ2世の短い治世の後に幼いシャルル9世が即位すると摂政として政治を担うことになる。』ちなみに同い年は、今川義元ってことで、日本は戦国自体って感じ。
それで主人公たるカトリーヌ・ド・メディシスの生きた時代は、ウィキペディアによると『国内ではユグノー(フランスカルヴァン派の呼称)とカトリックの対立が激化しており、カトリーヌは融和政策を図るが、フランス宗教戦争ユグノー戦争)の勃発を止めることはできなかった。休戦と再戦を繰り返した1572年にパリやフランス各地でプロテスタントの大量虐殺(サン・バルテルミの虐殺)が起こり、カトリーヌは悪名を残すことになる。』とのこと。

夫アンリ2世の死後、カトリーヌは常に黒の喪服を着用していた。』というので、本書の黒王妃というタイトルになる。

本書は小説としては、客観的な描写にカトリーヌの独白のようなものが挿入され、2つの異なる視点からフランスの内乱について描かれている。

カトリーヌは元々はメディチ家出身でイタリアから来ている。イタリアからすると文化的に遅れているフランスに嫁いで、イタリア文化を持ち込んだという思いが描かれている。そして、はっきりとは明示されていないものの、カトリーヌが幼い息子の代わりに政治を動かしたのは、イタリア女性ならではの「母=マンマ」として家族を守るというその姿勢が見受けられる。
キリスト教についていまいちよく分かっていないものの、カソリックプロテスタントとの激しい抗争がその当時にはあった。まさに宗教戦争ユグノー戦争)であり、そして多くのプロテスタントが血を流している。
アンボワーズ事件(1560年)、ヴァッシィの虐殺(1562年)そして聖バルテルミーの大虐殺(1572年)とどんどん虐殺の規模が大きくなっていく。
カトリーヌはプロテスタントを忌み嫌っていたわけではなかった。むしろ宥和政策を図ろうとしていた。しかし、権力を握った男たちはさらにその権力を強大化し、そして広げようと画策し、宗教対立をその道具とするようになった。結果、カトリーヌは家族を守るために、虐殺へと導いていく。
日本人からするとヨーロッパの宗教戦争は理解し難いかもしれないが、こうしたカトリーヌを主軸とした家族を守るという観点から見ると理解しやすいかもしれない。
英仏百年戦争(1337-1453)、フランス革命(1789-1804)の間を埋めるユグノー戦争(1562-1598)について、まだ前半部分だけなのだが知ることができた。ひたすらフランスでは血を流している。
分断していたフランスが一つのフランスへと変貌した百年戦争カソリックプロテスタントの対立によるユグノー戦争、そして自由と平等を手に入れるためのフランス革命
そのどれをとってもドラマティックで面白い。しかし、そのことを知るのは結構難しい。世界史を履修しないと知らないだろう(私は世界史を履修したけれど全く覚えていない)。それに時間が経過し遠い国で起きたことなので、なかなか知りたいという気持ちにならないかもしれない。けれど、現代にも通じることがある。
国家のこと宗教対立のこと政治のこと自由と平等のこと。科学が進展し、生活が大きく変わっているにも関わらず人間は未だに似たような問題で苦しんでいる。長く解決されていないということを把握するだけでも違うだろう。
たまには他国の歴史小説も良いものだ。
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(感想文の感想など)
補足しておこう。本書の主人公であるカトリーヌ・ド・メディシスはフランス王アンリ2世との間に10人の子どもをもうけ、うち7人が成人した。
フランソワ2世(男):14歳でスコットランド女王メアリーと結婚、15歳で王に即位→16歳で死去
エリザベート(女):スペイン王フェリペ2世と結婚→二女をもうけるが23歳で死去
クロード(女):ロレーヌ公シャルル3世と結婚→9人産んで28歳で死去
シャルル9世(男):10歳で王に即位→23歳で死去
アンリ3世(男):23歳で王に即位→37歳で暗殺
マルグレット(女):ナバラ王(のちフランス王アンリ4世)の王妃→62歳で死去(子なし)
アンジュー公フランソワ(男):29歳で死去
病弱だったり、暗殺だったりで、男は若くして死んでいる。女は子どもを産んで命を落とす。例外はこのいなかったマルグレットくらいだ。
夫だけでなく10人中8人の子どもにも先立たれる。多くの死の陰影が黒王妃の黒をより際立たせていく。