40代ロスジェネの明るいブログ

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感想文18-26:絶滅危惧種ビジネス―量産される高級観賞魚「アロワナ」の闇

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※2018年7月17日のYahoo!ブログを再掲

 

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アロワナ、別名、ドラゴンフィッシュ。龍魚。淡水に棲息する大型の古代魚である。その風貌から観賞魚として需要があり、特に紅い変異種は中国で人気が高い。

ドラゴンフィッシュは現代のパラドックスの最たる例-量産されている絶滅危惧種-である。(p.50)

絶滅が危惧されているにもかかわらず、繁殖方法が確立されているため、多くの個体が存在する。しかし、この養殖されたアロワナは自然界で生き延びることはできないし、絶滅危惧種としての野生のアロワナにはカウントされない。

「量産される絶滅危惧種」、矛盾した表現だが、国際自然保護連合レッドリストワシントン条約の附属書で絶滅危惧種と認定され国際取引が禁止されると、希少生物として需要が高まるため、野生種を捕獲して人工繁殖が試みられる場合が少なくない。本書はそうした生物の代表例のひとつ、アジアアロワナを追跡した記録である。(p.331)

と訳者あとがきに書かれているとおり、アロワナにまつわる事件、人物、棲息地、ビジネス、規制、政治、歴史、学問、冒険など、様々なことを網羅して構成されている。

本書を分類するのが難しく、言うなれば野生のアロワナを探す冒険ノンフィクションであるが、内容は小説的ですらある。アロワナに取り憑かれた女性が野生のアロワナを探し、出会うことになるのだが、冒険家でもない著者が描く秘境を巡るガチの冒険はリアリティを感じにくく、異世界転生モノみたいだ。

私にとっては、感想文にまとめるのにどうにも不向きな本なので、初めて知ったことを中心にまとめておこう。

淡水は地球上のすべての水のわずか2.5%で、その大半が氷河や地下水となっており、残る100分の1%が川や湖や湿地を形成している。そして、このわずかな地上の淡水が魚類の半数近くの生命を維持している。湖は孤立した島と同様、徹底した進化の実験が行われている自然界の研究所なのだ。(p.179)

アラル海についてという10年も前の自身のブログで湖消失についてまとめていた。地球上の淡水はわずかしかないが、それが枯渇してしまうかもしれない。

人類に影響が既に出ているかもしれないが、真っ先に生存の危機に瀕しているのが、淡水に棲息する生物たちだ。特に淡水魚。アロワナは大きく、風貌が特徴的で、需要があるために、その存在が広く認知されているかもしれないが、湖の消失や縮小、塩害等によって、既に絶滅してしまっている魚類は少なくないだろう。ほとんどその存在を気にかけられることもなく、地球上から姿を消してしまっているケースもあることだろう。

孤島と湖が生態系で考えると相同性があるという視点はこれまでなかったので興味深い。生態学の観点からは、湖が消失するということは、島が一つなくなるのと同じことなんだな。

科学探査の歴史は裏切りと業績の横奪に満ちている。(p.253)

本書でもそれに類する事件が実際に起きたのだが、事実関係が不明なので言及しない。本書では、その事件とは別に、有名な科学者や博物学者の影の部分を描いていた。

西洋博物学者列伝(感想文09-29)でも紹介されているジョン・ジェームズ・オーデュボン(1785-1851)。鳥類学者兼画家。彼の書く絵は素晴らしく美しい。でも、28種類の存在しない生物をでっちあげたことも知られている。そのうちの一つが「銃弾にも耐える鱗を持つ」魚だった。

それからカール・フォン・リンネ(1707-1778)。分類学の父。しかし、その分類という発想の基盤は夭逝したピーテル・アーテディ(Peter Artedi:1705-1735)のものだったのかもしれない。これをリンネによる業績の横奪と言ってのけるのが適切かは微妙だけれど、ピーテル・アーテディの名前はそれほど知られていないのは事実だ(英語版のウィキペディアには載ってる)。

そして、有名だけれどチャールズ・ダーウィン(1809-1882)とアルフレッド・ラッセル・ウォレス(1823-1913)。進化論の先取権争いということになるが、ウォレスはダーウィンを恨んでいないので、別段、事件というほどのものでもない。ジョン・ハンター(感想文12-41)も進化論に近い説に行き着いていた。特定の一人の天才だけが、新しい考え方にたどり着くということ自体が幻想なのかもしれない。

科学者とて人間なので、捏造、誇張、先主権争い、業績の簒奪、特許紛争など揉め事を挙げればキリがないし、今でもたくさんある。競争があるからこそ、科学は発展したとも言えるので、影の部分を強調しても仕方なく、真正面から捉え、リスクとして把握し、マネジメントするほかないだろう。

魚類学が花形分野でなくなった現在、在野の研究者の情熱と知識はきわめて貴重だ。(p.327)

そういえば、本書をさかなクンさんが読んだら、どんな感想を持つだろうか。伝説の魚類学者タイソン・ロバーツ、世界屈指の探検家ハイコ・ブレハ、マレーシアの鑑賞魚養殖王ケニー・ザ・フィッシュとなかなかに個性の強いキャラが続々と登場する。この当たりも私が小説的と感じた要因だろう。

人類未踏の地に足を踏み入れ、人類がまだ出会っていない生物を捕獲する。そんなフロンティアはもう残されていないのだろうか。そんなところを目指すこと自体が人間のエゴであり、称賛されることではないのだろうか。

絶滅危惧種ビジネス」というタイトルにそぐわない内容ではあったが、興味深い一冊だった。とはいえ、どうすれば絶滅危惧種を保護できるのだろうか。希少性をオーソライズし、取引を禁止しても、かえって需要を喚起してしまい、アンダーグラウンドで取引が起きる。かと言って野放しにもできないしな。

経済学的には狩猟権の販売ということだろうか。しかし、生殖地の保護状況、棲息地へのアクセス、狩猟方法を考えると、クロサイとは事情が異なるかもしれない。人工的に繁殖して個体数が増えるが、野生種は棲息地の開拓で絶滅するかもしれない。

生物多様性という言葉は「多様な生物がいる」という表層的な印象を持ってしまうが、それぞれの生物たちの事情はまさに多様だ。アロワナのビジネスは、人間の欲とエゴを顕にし、絶滅と繁殖の矛盾を突きつける好例だ。

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(感想文の感想など)

2020年2月10日付けの産経新聞の記事

希少淡水魚「アロワナ」剥製をネットに出品 男2人を書類送検によると、「アジアアロワナ」の剥製をインターネットのオークションサイトに出品したなどとして種の保存法違反(譲渡禁止、陳列・広告禁止)容疑で、男性2名が書類送検された。

種の保存法、正式名称「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」第12条では、希少野生動植物種の個体等(個体若しくはその器官又はこれらの加工品)の譲渡を禁止している。つまりアジアアロワナは希少野生動植物種であり、剥製は個体等の「加工品」であったために、法律違反と相成った。

象牙やべっ甲やミンクの毛皮とは違って、繁殖方法が確立しているアロワナのしかも剥製を取り締まることに意味はあるのかと疑問は残るので、逮捕された人にも同情していしまう。とはいえ、生き物の加工品を取り引きする際には事業者はきちんと事前に把握しておくべきルールであったことは確かだ。