40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文18-17:10万個の子宮

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※2018年6月4日のYahoo!ブログを再掲

 

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強烈なタイトルだ。これまでの人生で、子宮に思いを馳せたことはないし、子宮を「個」とカウントすることにもピンとこないし、さらには10万という圧倒的に大きな数の子宮をイメージすることもできない。

日本では国家賠償請求訴訟が終わるまでに10年を要すると言われる。(中略)日本政府の言う「一時」差し控えがもし10年であるならば、日本の産婦人科医たちは、あと10年、あと10万個の子宮を掘り続けることになる。(p.5)

子宮頸がんワクチンが10年間差し控えられれば、子宮頸がんが発生し、結果的に10万個もの子宮が外科的に摘出されることになる。科学的根拠に基づかない、ワクチン接種の差し控えの行政判断が、結果的に多くの女性(男性も他人事ではない)を苦しめることになる。

貧困と闘う知(感想文17-36)で示されていたように、予防ケアに対しては、需要が弱く価格感受性が強いために、予防医学のメリットが過小評価されてしまう。これはミクロ経済学的な視点だ。

また、かくて行動経済学は生まれり(感想文18-09)にあるように『人は効用を最大にするのではなく、後悔を最小にしようとする』ために、ほんの僅かな(無視できるほどの)確率で起きる副作用事例について、過度に反応してしまう。なぜなら、ワクチンは健康な人に接種するからだ。病気になってから投薬する治療薬の副作用や難易度の高い手術の失敗を許容できても、ワクチンによる副作用を冷静に判断できないのだ。これが行動経済学的な視点だ。

人間は自ら思っているほど合理的ではなく、また思っているほど利口でもない。他方で、そういったヒトが(おそらく)器質的に有している欠陥の存在を発見し、認識し、研究対象にすることも可能だ。

しかしながら、客観的に判断することは極めて難しく、フェイクニュースや感情を過剰に刺激する動画、SNSによるエセ専門家や専門家然とした人や自称関係者からの「情報」提供に加え、バッドニュースと過激な映像を求めるオールド・メディアが加担することで、さらに混沌としてくる。

だが、本書がテーマとしているのは、医療であり科学だ。ヒトパピローマウイルスの存在と感染経路、子宮頸がん発生のメカニズム、ワクチンの作用機序などの研究が行われ開発された子宮頸がんワクチンは、最先端の科学が導入された人類の叡智の結晶そのものなのだ。

確かに最先端の科学が導入されているからと言って、安心できるわけではない。しかし、因果関係どころか相関関係すらはっきりしない副作用リスクを過剰に取り上げ、行政がワクチン接種を差し控えるという判断を行い、さらには集団訴訟によってワクチン再開を遅らせることは、一体誰のために行っているのだろうか。

子宮頸がんワクチン問題は医療問題ではない。子宮頸がんワクチン問題は日本社会の縮図だ。この問題を語る語彙は、思春期、性、母子関係、自己実現、妊娠出産、痛み、死といった女性のライフサイクル全般に関わるのはもとより、市民権と社会運動、権力と名誉と金、メディア・政治・アカデミアの機能不全、代替医療と宗教、科学と法廷といった社会全般を語る言葉であり、真実を幻へといざなう負の引力を帯びている。(p.265)

1点だけ著者の村中さんと意見を異にするのは、子宮頸がんワクチン問題が日本社会特有だと私は考えていないことだ。自らが損するかもしれないリスクについて、冷静に客観的に判断できないのはヒトの本質であり、他国でも同様のことは起きうると思う。

子宮頸がんワクチンを作り上げるのも人間であるなら、そのワクチンを過度に恐れ使わないという判断をするのもまた人間である。

とまあ、こんなことを書いておきながら、著者の村中さんの取組みには感服するほかない。正義を振りかざす人たちに、それは間違っていると指摘するのは、途方もなく大変だし、自らの身を危険に晒すし、そういった活動が称賛されることはほとんどないからだ。この度、ジョン・マドックス賞を受賞し、本書の出版に至ったのは、素晴らしいことだと思う。もっと注目されても良いはずだ。

子宮頸がんワクチンは、現在、世界約130カ国で承認され、71カ国で女子に定期接種、11カ国で男子も定期接種となっている。男子にも接種するのは、子宮頸がんワクチンは、肛門がんや咽頭がん、陰茎がんなど男性に多いがんも予防し、女性の多くが男性パートナーから感染するからである。(p.191)

私には娘はいないが、息子にも子宮頸がんワクチンを接種してもらおうかな。私自身も接種してからだろうけれど。妻にも接種を勧めたい。でも調べてみると結構高いな…。3回も接種しないといけないし。悩ましいところ。注射嫌いなんだよな。

東京医大の論文が撤回されるなど、反・反ワクチン側に流れが来ている。次はワクチン再開の行政判断だ。人間は自らの器質的欠陥を乗り越え、正しく判断に至るようになることを信じているし、信じたい。

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(感想文の感想など)

2020年7月に 9価ワクチン(9種類のウイルス感染を防ぐ)シルガード9の製造販売が日本で承認された。

そして10月になって、厚生労働省が子宮頸がんワクチンの新リーフレットで有効性などを紹介するようになり、1%と言われる接種率を少しでも上げようとしている。集団訴訟を受けている中での、ギリギリの対応というところなんだろうか。

少しずつでも良いので、いい方向へ向かって欲しい。