40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文18-29:経済学者、待機児童ゼロに挑む

f:id:sky-and-heart:20201215203443j:plain

※2018年8月8日のYahoo!ブログを再掲

 

↓↓↓

待機児童が社会問題化して久しい。もともとは匿名ブログの過激なタイトルだったが、2016年のユーキャン新語・流行語大賞のトップ10に「保育園落ちた日本死ね」が選ばれたことも話題になった。いかにも扇情的な言い回しで、そこまでバズったとも思わないが、待機児童問題が解消されていない現状へのシンパシーから、少なからぬインパクトを残したことは確かだろう。

私には息子が2人いて、2人とも保育所にお世話になった。恥ずかしながら白状すると、「保活」は完全に妻任せで、私はほとんどタッチしていない。妻の努力のおかげで、認可の私立保育所に通うことができた。先生方には大変お世話になったし、同級生の親たちとは今でも交流が続いている。

長男は4月生まれのため、翌年度に0歳児として入園できた。しかし、次男は2月生まれなので、翌々年度に1歳児として入園するほかなく、結果的に我が子2人は1年間のみ別の保育所に通うことになった(当時、長男は年長)。きょうだいだと点数が高くなるのだが、それでも1歳児枠は狭き門だった。系列とは言えそれぞれの保育所への送り迎えしなくてはならず、かなり苦労したことを覚えている。雨の日とかは特に悲惨だった。

そんな息子たち2人は晴れて卒園し、小学生になった。すっかり自分たちの問題ではなくなったため関心の薄れた待機児童問題について、経済学者が挑んだというタイトルに惹かれて気になって本書を手にとってみた。

長男が入園した頃とは違い、ミクロ経済学を学んだ今となっては、経済学がいかに世に役立てる学問かを知っているので、難解な待機児童問題にどう切り込み、どう解決するのか、ワクワクしながらページをめくっていった。

日本の保育は社会主義だと考えれば、待機児童という形の良い「行列」に並ばなければならないことも納得でしょう。我々は、お上から保育サービスの「配給」を受けているのであり、配給量が足りなくて待機児童が発生する仕組みになっているわけです。(p.69)

待機児童問題の根本原因は、社会主義的な制度であるということだ。極めて明快であり、解決策もはっきりしている。にも関わらず、解決できない。なぜなら既得権益が存在するからだ。

重要なポイントは、待機児童がいる方がむしろ認可保育所にとって好都合だということです。待機児童問題が解消されてしまっては、既存の認可保育所はこれほど楽な経営ができません。(p.90)

誰が既得権益を受けているか。それは認可保育所であり、特に公立の認可保育所だ。公立の場合、職員は地方公務員であり、給与が高く、高コスト構造であり、公費依存体質になっている。他に既得権益を受けているのは、既に保育所を利用している親たちでもある。私たち家族自身も既得権の受益者だったのだ。

既得権の受益者が、保育園の新規参入を阻止し、超過需要を維持する。それによって、未来を担う乳児たち、そして子を持ちながら働きたい親に苦労を強いさせる。さらには子どもをもうけようという意欲を削ぐこともあるだろう。制度や仕組みを変え、市場に任せる状態にすることが望ましい。

著者の鈴木亘さんは、大学教授であり、アカデミアの世界にいながら、実世界の問題解決に多くの労力を費やしている。こういう方がもっと増えれば良いと強く願うし、そのためにもミクロ経済学は全国民に必修の学問にして欲しい(できれば世界規模で)。そうすれば、既得権益層を守る社会主義的な政策を出すような政治家、役人、それを擁護する論調のメディアは早々に退場するだろう。

まだ時間はかかるかもしれないが、待機児童問題は解消される兆しがある。価格規制を撤廃し、競争原理を働かせ、民間による新規参入が増えている。特に0-2歳児の保育は大きな需要があり、本来であれば大きなビジネスチャンスと言える。社会主義的に行列に並んで配給を待つような仕組みは愚かであり、コネや賄賂が介在しやすい素地にすらなる。なぜ現代の日本でこんな仕組みが維持されるのか理解に苦しむ。

本書を読んで、小池都政を少し見直した。希望の党のすったもんだがあり、すっかりネガティブなイメージが定着してしまったが、東京都の待機児童問題に対する取り組みは正しく機能していると評価できる。是非、鈴木先生のような方をブレインとしてどんどん活用して欲しい。

世の中がようやく変わりつつあるように感じる。私を含むロスジェネ世代を境に、社会主義的な政策を支持しなくなってきた。さらに若い世代は、毛嫌いすらしているのではないか。

皆が皆でないものの、いよいよ社会主義はダメだということが、議論の余地なく決着したことを若い世代ははっきりと悟ったのだろう。社会に必要なのは自由と競争と協力であり、参入障壁や価格規制や補助金ではない。

まだまだ社会には多くの問題がある。解決策は既得権益と規制の突破ということに等しい。個人的には、労働、年金、社会保障だ。いずれ解決して欲しいし、そういう政策や政策を提案する政党を強く支持したい。

↑↑↑

 

(感想文の感想など)

2019年10月1日から幼児教育・保育が無償となり、認可保育所などの利用料が無料となった。それは良いことだなと思った方はご用心。この施策は決して褒められたものではない。

本の著者である鈴木亘さんによる以下の記事が大変参考になる。
www.nippon.com

かく言う我が家は正社員共働きであるため、保育の必要度の点数が高く、息子2人は認可保育員でお世話になった。つまりは、「強きを助け、弱きをくじく」倒錯した政策の恩恵を受けたと言える。その時はそんなことを考えもしなかったのだが。

未だに日本ではポピュリズム的なバラマキ政策で人気を得ようとする政治が続いてしまっている。いつになったら、ちゃんと経済学からの知見を活かし、より良い社会をつくることができるようになるのだろうか。