40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文13-25:経済学に何ができるか

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※2013年4月29日のYahoo!ブログを再掲。

 

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今、経済学がホットだ。たぶん。経済学がホットになってきたその理由は、適用できる範囲が普通の人が思っている以上に広いということだ。

経済学は、人間のインセンティブを考える学問であり、つまりは人間の行動全てに関わってくる。為替とかGDPとか株価とかそういういかにも「ザ・経済」って感じのことだけでなく、売春とか相撲の八百長とか人工妊娠中絶といったこともターゲットになっている(超ヤバい経済学(感想文11-20)参照)。

本書は、タイトルのとおり経済学にできることについて、非常に真面目なテーマを選んで丁寧に解説している。

本書の目的は、人々の間における価値の相克と分裂、そしてひとりの人間の内部での価値の相克と分裂、この双方を意識しながら、経済社会の制度や慣行を学び直す材料を提供することにある。

とあり、集団と個人におけるインセンティブを意識しながら、社会制度を捉え直すことができる。とはいえ、ちゃんと読もうと思うと、これはもうかなり難しいので、興味のあるところを中心に読んだ。特に興味があったのは、『知識は公共財か―学問の自由と知的独占』について。

〈反〉知的独占(感想文13-17)で示されたように、特許システムによる知的独占がイノベーションへの弊害になっていることが指摘されている。本書では、大学の教員の雇用の問題(主として任期制)にも触れ、知を生み出すこと、そしてその知を排他的にコントロールすることについてまとめている。

知的独占か反独占か、おそらくこの難問の解は、(1)新しいアイデアを生まれうような刺激を与えること、(2)そのアイデア自体を社会的に共有し、多くの人が利用できるようにすることの中間にあるだろう。

とある。大学などの公的な機関で税金を元にして生み出された研究成果は、やはり公共財と位置づけるのが適切なのかもしれない。しかし、他方で、研究成果を権利化し、独占し、そこから利益を生み出し、その一部が発明者である研究者に還元されることが、研究成果を生み出すインセンティブになるのだとしたら、知的独占も認めても良いのかもしれない。

この問題は極めて難しく、ようやく実証研究が行われ始め、プロパテント政策がイノベーションに有効であるという単純な話ではないことが明らかになってきたところだ。特許システムは既に稼働していて、多くの専門家が関わっているのだけれど、一体なんのために知的独占が許容されているのか、その本質を説明することが困難になっている。研究成果の権利化にこれから逆風が吹き始めるのではないだろうか。

さて、知的独占以外のことについて印象的だったことを挙げておこう。

国債の累積を批判しつつ、同時に増税反対を叫ぶのは、両立しえない「二重思考」だということを認めることが必要なのだ。

ふむ。国民は平気で二重思考するものだ。節電は勘弁してくれという一方で、電気料金値上げに反対する。これも二重思考の一例だろう。日本を良くするためには、経済学の教育が必要だと思う。そのためには教師が経済学を学ばないといけないのだろうけれど、最も遠いところにいる人種に感じるんだよなぁ。

日本では憲法が規定する「租税法律主義」によって、税制も予算案も、民主的に選ばれた議員によって立法府で審議され法律となる。他方、金融政策は日銀の政策委員会で審議されて、決定・実施される。(中略)金融政策は、現代デモクラシー国家において財政政策とは少し異なる位置を占める。

なるほど。初めて知った。金融政策は、民主主義の仕組みではない。日銀についてあんまり考えたことがない。今度、ちょっと勉強してみよう。

国連の基金のひとつ、国際連合人間居住計画によると、現在、世界のスラム住居者は約10億人、全世界人口のほぼ6人に1人にのぼり、2030年にはその数は倍増すると予測している。

貧困問題はこれからさらに重大化する。貧困は経済学がターゲットとする重要なテーマの一つになるだろう。

最低賃金法は大事な法律だ。この法律がなければ企業間の労働の買い叩き競争が過熱し、労働者の経済状態を害するような事態が起こる。その点でも現代社会における最低賃金法の存在意義は十分に認められる。

最低賃金は、家賃の価格規制と同じく全くダメなものだという認識だったが、そういうことではないようだ。労働の買い叩きを避けるために機能している。非正規労働、格差、解雇規制といった労働についても経済学の考え方が適用されつつある。

ここから読書感想文からかなり脱線したことを書きます。

最近の安倍政権を見ていると、メディアからの批判に常にあっけらかんとしている。これはストレス耐性がついたとか、メディア対応がうまくなったからといったことではないように思う。民主党に政権を奪われた3年くらいの間に、経済学をきっちりと学んだからではないだろうか。

靖国参拝への非難にそれがどうしたとばかりだけれど、インセンティブという観点から考えると分かりやすい。要するに韓国と中国に配慮するインセンティブがないんだ。

例えば朝日新聞は、2013年4月23、24、26日と実に3日も靖国問題を取り扱っている。ぼくはちゃんとニュースをチェックする人ではないけれど、チラ見した感じでは、現政権は歯牙にもかけてない感じがする。

そもそもの一部の新聞の非難をほとんど理解できない状況にすらなっているのかもしれない。「配慮するインセンティブがない。以上、終わり。」という、極めてドライな心情があるのではないだろうか。経済学に染まった怜悧な為政者が、果たして適切なのかどうかはぼくには分からない。

とはいえ、良く言えば「和を以て貴しとなす」、悪く言えば「空気読め」みたいな日本的な決断様式がもはや機能せず、かと言って攻撃的な改革者や独裁者も困りものだ。宇宙人に辟易し、独裁者に首を傾げ、今の国民は現政権を支持しているのだろう。

ちょうど今、日本は転換点にいる。株価や円ドルレートだけでなく、判断や意思決定のベースがすっかり変わってしまったのかもしれない。繰り返すけれど、これが良いことなのかどうかはやっぱり分からない。ただ、変わったかもしれない、ということだ。

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(感想文の感想など)

これを書いた時に2020年まで安倍政権が続くなんて夢にも思わなかった。

安倍政権は経済再生を最優先としたが、結果として株価は上がったけれど、国民の生活は良くなったかというと微妙なところ。

消費税増税は景気を後退させたのは、ほぼ間違いないんだけれど。