40代ロスジェネの明るいブログ

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感想文10-34:世界クジラ戦争

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※2010年5月13日のYahoo!ブログを再掲

 

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著者の小松さんは、日本のクジラ外交では非常に有名な方。ずいぶん前に「くじら紛争の真実」という本を読んで、クジラの問題の歪さを知った。

そして、気付けば、日本が非難されるのはクジラだけでなくなっているし、その非難の程度も大きくなっている。

シー・シェパードが日本の調査捕鯨を荒っぽい方法で妨害する。

地中海のクロマグロ絶滅危惧種となり、その商業取引が禁止されそうになる。

日本のイルカ漁が残酷だとして映画化される。

よその国の食文化にとやかく文句をいうことについて、そりゃあまあ山ほど日本側としては言いたいことがあるんだけれど、外交になるとその駆け引きが難しい。

理屈や正論が通じない世界もある。IWC(International Whaling Commission:国際捕鯨委員会)がそのひとつ。交渉には様々なやり方があり、実際に交渉の表舞台に立ってきた著者ならではの実践に裏打ちされたノウハウが詰まっている。

タフな外交をこなせるほどの人は、往々にして自己主張が激しく、さいごには属する組織から爪弾きにされてしまう。国家の罠の著者でもある佐藤優さんを思い出す。著者もご多分に漏れず水産庁で憂き目にあい、辞めている。こういうところが、いかにも日本の役所。こういった事例が、この哀れな組織に有能な人材が流入するのを間接的に妨げている。

さて、本書では、クジラ外交以外にも、リーダーシップ論を展開しているが、まぁオマケみたいなものだろう。(元)役人が、リーダーシップ論や世代論やエリート論を語るのは、悪い癖に思える。自らの有能さをひけらかしたいからという自意識の現れに見えてしまう。

役人は悲しいことに国民からは感謝されない。公僕でありながらも、公から感謝というフィードバックはほとんどない。そのため、どこかでアピールする場を欲しているように思えるのだ。

さいごに、印象的だったのが、日本の調査捕鯨船の老朽化の話だ。せっかく捕獲したクジラを冷凍する能力が低いので、市場に出まわっても、味が悪くなってしまっている。
個人的に知り合いのクジラ研究者は、ミンククジラは美味しくないと言っていたことを思い出したけれど、もしかしたら、クジラの種類の問題ではなく、冷凍の段階で失敗しているからかもしれない。

スーパーでたまに赤い身のクジラが売られているところをみる。当然、美味しくないと売れない。貴重なタンパク源だとしても、牛肉や豚肉や鶏肉や鮮魚類と争って、カゴに入れられ、レジに運ばれるには、感傷的なインセンティブでなく、完全に味でライバルたちと渡り合えないといけないだろう。

クジラに臭みがあり、調理に手間をとるのなら、消費者は選択しない。そういう点からまず解決して欲しい。

考えてみれば、ずいぶん長い間、クジラを食していない。小学校2年生までは給食で、サイコロ状の鯨肉と野菜がしょうが醤油で炊かれた料理が提供されていた。それ以降、めったに食べる機会のない食品になってしまっている。

商業捕鯨が禁止されずいぶん長い時間が過ぎた。クジラを食べられないことにもう国民は慣れてしまったし、関心も薄いだろう。シー・シェパードの登場で、捕鯨に国民の関心が向くようになっているのは、皮肉なものだ。

クジラをどうしても食べたいと思う人たちはそうは多くないだろう。クジラ外交は、新たな岐路に立たされている。

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(感想文の感想など)

日本は2019年6月30日をもってIWCを脱退し、大型鯨類を対象とした捕鯨業を再開している(水産庁HP参照)。

確かに近所のスーパーで鯨肉のお刺身が売られている。商業捕鯨が再開したためだろうか。今度、買ってみるかな。