40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文11-26:理性の限界―不可能性・不確定性・不完全性

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※2011年7月16日のYahoo!ブログを再掲

 

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どうやら順番が逆のようで知性の限界―不可測性・不確実性・不可知性(感想文10-46)の前書となるのが本書。とはいえ、順番を間違えても関係がないっぽい。どっちから読んでも楽しめる人には楽しめるはず。

今回も科学哲学の偉人たちがたくさん登場する。そして、「理性」がとっても疑わしくって、しっかりとしていない性質のものということが分かってくる。

本書で印象に残ったことを挙げていこう。

英仏海峡横断レースの世界記録7時間40分の保持者も女性で、これは男性の世界記録を30分以上引き離しています。

女性が有利なスポーツは非常に限られている。長距離の水泳だと女性が男性に勝てるようだ。

完全に民主的な社会的決定方式は、存在しない(中略)1951年にコロンビア大学数理経済学者ケネス・アロウの証明した「不可能性定理」によって明らかになりました。

これって全然知らなかった。投票というみんなで何かを選ぶという方法が、いろんな場面で利用されているけれど、これが必ずしもみんなの意見を代表するってことにはならないってことを意味している。投票のルールをちょっと変えるだけで、選ばれ方が変わってしまうんだ。これが副題の一つである不可能性。

トロント大学の心理学者アナトール・ラパポートの作成した(中略)TFT(ティット・フォー・タット)つまり「しっぺ返し」戦略

協力と裏切りというシンプルなゲームにおいて、最も有効だったのがこのしっぺ返し戦略。実社会でも役立つかも?

不確定性原理は、電子の位置と運動量は、本来的に決まっているものではなく、さまざまな状態が「共存」して、どの状態を観測することになるのかは決定されていないことを表しています。

これはわりと有名な話。副題の二つ目の不確定性原理ということでメモしておこう。

ロンドン大学の哲学者カール・ポパーの「進化論的科学論」によれば、環境に適応できない生物が自然淘汰されるのと同じように、「古い」科学理論も観測や実験データによって排除されていくのです。

「反証できひん理論は科学的やない(なぜか関西弁)」という反証主義を提唱したポパー。そのため「科学論は進化し、自然淘汰されるんや」という発想につながっていくんだね。

クーンは、新たな科学理論が古い科学理論よりも「真理」に接近するという哲学者ポパーの「進歩」概念を「幻想」だと呼んでいます。なぜなら、古い科学理論が新しい科学理論へ移行するのは、通常科学においては、それが、より多くのパズルを発見し解決するために便利な「道具」であると科学者集団が「合意」した場合にすぎないからです。

そういうポパーの発想をドライに切り捨てるクーン。「科学は科学者集団が合意した道具にすぎへんのや」と。パラダイムシフトという言葉を生み出したクーンらしい、科学の考え方が垣間見れる。

あらゆる方法を許容する(中略)唯一の方法などないと否定する姿勢(中略)ファイヤアーベントは、自分の哲学を「方法論的虚無主義」と呼んでいる

そして、著者が(おそらく)好きなファイヤアーベントが登場する。「進化とか道具とか関係ないねん。科学は何でもありやねん。しゃーない。しゃーない。」とドライから自棄っぱちな感すら漂うところに行き着く。科学とはこうあるべきという巷でついつい言われそうなことを根本から否定している。相対主義的な科学観。

ゲーデルは「述語論理の完全性定理」と「自然数理の不完全性定理」の両方を証明している

ここで出てくる三つ目の不完全性。数学ガール/ゲーデルの不完全性定理(感想文10-07)でも登場した。述語論理の完全性定理も証明しているとは知らなんだ。『つまり、数学の世界には、公理系では「汲み尽くせない」真理の存在することが明らかになったわけです。』と書いてあるけれど、そう言われてもどうもピンと来ない。入れ子構造になっているからっていう理解で良いんだろうか。うーむ。

自然界や自然数論の究極の中心を覗いてみると、そこに見えてきたのは、確固たる実在や確実性ではなく、根源的な不確定性やランダム性が潜んでいたということなのです!

原子の世界にしても、科学にしても、数学にしても、中心部分を突き詰めていくと、不可能性・不確定性・不完全性に突き当たる。ぼくたちが考えているほど、物事はすっきりしていないし、はっきりしていない。この感覚は不安に駆り立てるというよりも、ちょっと安心感を与えてくれる。

理性や知性に限界があること、その限界がどの辺にあるかということを意識しておくことは、大事なことだろう。見極めるのはたいそう難しそうではあるけれど。

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(感想文の感想など)

今調べてみると、ドーバー海峡横断記録(英語ウィキペディア)によると、女性優位とは言えない。

最速は、オーストラリアのTrent Grimseyさんで記録は6時間55分。ちなみに女性はチェコのYvetta Hlava?ovaさんで7時間25分。

しかし、横断回数ではUKのAlison Streeterさんが43回とトップでこの方は女性だ。43回もドーバー海峡を泳いで渡るとか、カナヅチの私からすると正気の沙汰ではないが、この方は大英帝国勲章を授賞するなど、イギリス国内でも有名な方のようだ。

こういう知識のアップデートは大事だなぁ。