40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文15-55:海に降る

※2015年12月24日のYahoo!ブログを再掲

 

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WOWOWで連続ドラマ化したことで話題になった本書。海洋研究開発機構JAMSTEC)が舞台という、なかなかにマニアックな小説だ。

思い返せば、去年、追浜(※「おっぱま」と読む)にある現実のJAMSTECに行ったことがある。そこで有人潜水調査船「しんかい6500」を見せていただき、そのプラモデルを息子に買って帰った。思った以上にプラモデルの作成難易度が高く、非常に苦労したのを覚えている。

そういうちょっとした縁があり、本書を楽しく読むことができた。気になる箇所を挙げておこう。

潜水艦のパイロットっていうのは船を操縦できるだけじゃない。船を解体してもう一度組み立てるくらいの整備の腕がなければ駄目なんだ。

うーむ、そうなんだ。知らなかった。飛行機のパイロットやF1レーサーがそこまで整備の腕が必要だとは思わない。なんでそこまで整備の腕が必要なのだろうか。

パイロットが把握していないものはボルトひとつでもあってはならない。宇宙船と違って、海底で船体が故障しても耐圧殻の外に出ることはできない。

そう、命がかかっているのだ。海底で故障したら、中からどこが原因が突き止めないと地上に戻ることはできない。私は閉所恐怖症ではないが、あんな狭いところに閉じ込められて、海の底に行くということは、想像するだけで発狂しそうになる。

「科学っていうのはな、社会に役立つものばかりじゃない。やりたいからやっている。そういう研究の方がむしろ多いかもしれない。そういう意味では科学者はエゴの塊みたいなものだ。傲慢な言い方をすれば、俺の研究人生が遅れるってことは、人類の知が遅れるってことだ。」

これは科学者である目山先生のセリフだ。深海をフィールドとした研究は、その場に行って何かを発見してこないことには研究がなかなか進展しない。

本書では科学の素晴らしさだけでなく、その裏で必ず必要となる研究費のことについてもきちんと描いている。納税者である一般国民が科学に対して期待していることは何だろうか。イノベーションを起こし、新しい産業を生み出し、雇用を増やすことだろうか。それとも、誰も到達したことのない宇宙の果てや、見たこともない生物を発見するというロマンのようなものだろうか。

簡単にイノベーションとロマンのどちらかに分類できるということではないけれど、私は後者の気持ちに期待したい。科学に残されているフロンティアは少ないのかもしれない。あるいは人間ができることの限界が近づいているのかもしれない。それでもまだドキドキするようなロマンがあると信じたい。

深海に潜りたい。誰も知らない海の、地球の秘密を解き明かしたい。そんな研究者の執念を耐圧殻に宿らせて海の底へ連れていく。

狂気じみた執念が新しい発見につながる。狂気に飲み込まれてしまうケースもあるのだけれど。誰も行ったことのないところに行くというのは、それだけで人を魅了してしまうのだろう。

夢を継ぐ人からかなえる人へ。そして託す人へと移る日もそう遠くない。

夢。そう、夢。はて、私の夢は何だったろうか。特に夢は託されていない…はず、たぶん。息子に何か託してみようか。うーむ。

こういう本が出ると、JAMSTECのファンが増えることだろう。どこの研究機関も国からのお金を減らされていて苦労しているはず。クラウドファンディングみたいにファンからお金を集める仕組みが有効かもしれないけれど、そんな何億とかは集まらないだろうなぁ。

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(感想文の感想など)

私は泳げないが、深海も深海生物も好きだ。深い海の底に住まう、異形な生き物たち。想像するだけで楽しくなってくる。

深海の魅力は生物だけではない。資源の宝庫、かもしれない。

 NHKイカル「ゴールドラッシュおきるか 深海に眠る金鉱脈」(2022.05.27)でよくまとめられている。

www3.nhk.or.jp

日本の領海にある熱水噴出孔に高濃度の金(といっても平均で1トンあたり17グラム)があることを発見。そして、金の回収にシアノバクテリアという光合成細菌を活用するって話。

ロマンがあるし、しかもカネ、もっと直截的に、ゴールドをゲットできるかもなので、今後の展開に期待したいね。