コンバージェンス(convergence)を辞書で調べると、『一点に集まること。収束すること。』とある。本書では、生物学と工学がコンバージェンス(集約)することで大きな変革を起こそうとしている「マサチューセッツ工科大学(MIT)」での先駆的な研究や最新テクノロジーを紹介している。
著者はMIT初の女性学長に就任したスーザン・ホックフィールド先生だ。
本書に載っているプロジェクトは次の5つ
①ウイルスが育てるバッテリー(エネルギー革命)
②タンパク質を利用した水フィルター(浄水革命)
③がんを早期発見・治療できる酵素活用型ナノ粒子(医療革命)
④脳を増強し身体の動きを取り戻す義肢(身体革命)
⑤食料危機を乗り越えるツール「高速フェノタイピング」(食料革命)
①から⑤について専門用語で端的に換言すると、①生物学的ナノエンジニアリング、②細胞膜タンパク質アクアポリン、③ナノ粒子とDDS(Drug Delivery System)、④BMI(Brain-Machine Interface)、⑤フェノミクス(phenomics)だろうか。
どの研究もサイエンスそのものが魅力的なだけでなく、目指している未来ビジョンも明確だ。いずれもSDGsに合致しており、人類が共通に抱える課題に取り組むその姿勢に感銘を受ける。
それぞれの研究やテクノロジーについては関心のある箇所をお読みになればいいだろう。本書の重要な点は、コンバージェンスについてだ。
コンバージェンス1.0があれだけの成功を収められたのは、財政支援、学際的協力、政治的意思が揃っていたからだ。<中略>明暗を分けたのは、第2次世界大戦だった。米国は戦争に勝つために、他の国々と共同で、レーダー(電波探知機)、ソナー(音波探知機)、新型コンピュータ、原子爆弾などテクノロジーの開発に力を入れた。いずれもコンバージェンス1.0から生まれたテクノロジーである。(p.188-189)
コンバージェンス1.0とは、物理学と工学の融合で第2次世界大戦を契機に、レーダー、ソナー、コンピュータ、原子爆弾などが生まれた。今となっては物理学と工学が融合して久しく、多くの人にとって2つの学問はオーバーラップした領域という認識だろう。
同様に生物学と工学も融合し、新たなテクノロジー、そしてビジネスが生まれようとしている。
本書では、このコンバージェンス1.0に貢献したヴァネヴァー・ブッシュの存在に言及している。ブッシュさんはちょくちょく登場する方(感想文22-14:クロード・シャノン、感想文10-68アカデミック・キャピタリズムを超えて)で、改めて調べてみるとMITの副学長を務めていたのだ。
そして本書ではコンバージェンス2.0のために国の投資を強く要望している。
アメリカですらそうなのかと驚くが、本書の原著が出版された2019年当時、まさにトランプ政権が科学予算を大幅に削減しており、それへの非難の色合いが強い。
「役に立たない」科学が役に立つ(感想文20-37)と同様にアメリカで科学が危機に晒され出版されるに至った科学者の悲鳴とも言える。
世の中はコロナで大きく変貌した。コロナの前後で科学もどう変わったのか、まとまった本が出れば読んでみたい。