40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文08-52:ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか

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※2008年10月2日のYahoo!ブログを再掲。

 

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以前、組織と内部告発のことについて書いたことがあった。近年、企業の悪事が明るみになることがある。そのほとんどは内部告発によるものだ。

本書では様々な業態の民間企業、そして公的な機関である官庁でも内部告発が行われてきた事実を知ることができる。内部告発者がいなければ明るみにならなかったことばかりだ。

内部告発者の緊張と覚悟が伝わってくる。そして、それを記事にする記者も緊張と覚悟を持って告発に耳を傾けている姿勢がうかがい知れる。

三菱ふそうトラックのリコール隠しに始まり、ミートホープ船場吉兆といった食品偽装・賞味期限書き換えといった記憶に新しい事件から、金沢大学付属病院無断臨床試験、警察裏金問題、検察裏金問題など、民間企業でない組織での事件についても描かれている。

特に印象に強く残った2つのことについて、今回は取り上げたい。

1つはぼくが全く知らなかった制度である、「リーニエンシー制度」だ。日本語では、「課徴金減免制度」である。

談合がバレると課徴金(つまり罰金)を支払わないといけない。とはいえ、談合なんて滅多にバレない。そこでアメリカはある取り組みを始めた。平たくいうと、「裏切りゲーム」だ。それが日本でも最近取り入れられた。

日本の制度は、こうだ。

例えば10社が談合しているとする。バレなければ10社とも利益はあるが、バレれば罰金となる、というのがまず前提。ゲームのルールは、最初に裏切ったら、罰金はなし。2番目に裏切ったら罰金は半額。3番目に裏切ったら罰金は3割引。4番目以降は罰金を免れない。

最初に裏切るのは勇気がいるだろう。でも誰かが最初に裏切ったら、2番目からは我先を争うように裏切るだろう。裏切らないメリットはもはやないからだ。

この制度はかなり成功しているとのこと。実例からは、談合をしてても利益の少ない中小企業が裏切るのではなく、むしろ大企業が真っ先に裏切っているのが面白い。

もう1つ印象に残っているのは、「検察裏金事件」だ。

三井環氏が調査活動費を裏金として検察が利用していることを内部告発した。実態としては、検事が裏金を使って料亭で飲み食いしていたらしい。

三井自身も検事である。そして自らの人事での冷遇について大いに不満があったらしい。つまり、裏金の内部告発で上司の検事を陥れようという策略があった。

もちろん、こうした犯罪を行っている検察の実態を恥じてもいた。

三井は内部告発した。

ほどなくして、三井は逮捕される。

容疑は詐欺罪。容疑の中身と内部告発とは全く関係はない。未だに実態は明らかではないようではあるが、内部告発の口封じと見られる。

個人が組織との軋轢に苦しむことはままある。通常、個人が組織と対等にやり合うことはできない。内部告発という武器と、それを記事にするマスコミの協力があって、初めて打開できる、かもしれない。

ただし、こう考えると、現在の内部告発のシステムで完全に抜け落ちている部分がある。つまり、この仕組みでは、マスコミからは内部告発者は現れ得ないということだ。

・・・。

まあ、それはさておき、本書は、記者の視点から内部告発を語っている。記事にする側の考え方を垣間見ることができたのも新鮮だった。

読み応えがあり、自分と組織との関わりについて、改めて考えさせられる一冊だった。

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(感想文の感想など)

その後、2012年に経済学を勉強する機会があり、リーニエンシー制度がゲーム理論を応用してできた仕組みということを学び、感動したことを覚えている。

ゲーム理論は取っ掛かりは簡単ではあるけれど、深く学んでいくとたいそう難しい学問ということが分かってくる。また応用範囲の広さにも驚かされる。

ゲーム理論で偉大な業績を遺した天才数学者ジョン・ナッシュの生涯を描いた映画「ビューティフル・マインド」もオススメ。ゲーム理論に関する話はほとんど出てこないのだけれど。