40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文17-10:世界をつくった6つの革命の物語

 

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※2017年2月27日のYahoo!ブログを再掲。

 

 

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私は科学史に興味がある。科学史関係の本の多くは、その物語の中心に科学者を据えている。その科学者が何を考え、どういう時代を生き、何を発見・発明し、そしてそれが社会にどのような衝撃を与えたか。

科学者は私たちと同じ人間であり、偉大な発見や発明をすることもあるが、大きな過ちを犯すこともある。あるいはその発見や発明が思いがけない悲劇を生み出すこともある。そういう科学者を中心にした科学史の本はこれまでいくつも触れてきた。

本書は、そういったこれまでの科学史本とは大きく異なる。本書が取り上げている6つの革命の物語とは、ガラス、冷たさ、音、清潔、時間、光という私たちの周りにあるありふれたものばかりだ。

ガラスがそんなに面白いのだろうか。時間は実存するものであり、そこに何か世界をつくりあげる要素があるのだろうか。読み始める前はそういう疑問があったのだが、読み進めるうちに本書が描く革命の物語にすっかり魅了されてしまった。

本書のテーマのひとつは、この不思議な影響の連鎖、「ハチドリ効果」である。ある分野のイノベーション、またはイノベーション群が、最終的にまるでちがうように思われる領域に変化を引き起こす。

ハチドリはホバリングする能力を手に入れることで独自の進化を遂げた。ハチドリが花の蜜を吸うためにホバリングするという流れは分かるが、花の存在からハチドリを予見できる人はまずいないだろう。これがハチドリ効果であり、全く異なる領域にまでイノベーションは影響を及ぼしてしまうのだ。

「ロングズーム」の歴史と呼んでいるアプローチだ。(中略)さまざまなスケールで同時に検討することによって、歴史の変化を説明しようとする試みである。

例えば清潔で言えば、ミクロなレベルではウイルスや細菌であり、マクロなレベルでは公衆衛生や都市生活やまちづくり、さらには半導体工場のクリーンルームとなる。このように特定のテーマをあらゆるスケールで同時に考えることによって、新しい捉え方ができる。これは複眼的な多視点という印象で、様々な事象にアプローチしていく様はスリリングである。

スリリングな知的冒険は本書を是非読んでいただくことにしよう。この感想文では、本書を通じて、改めてイノベーションについて考えてみたので、整理してみたいと思う。

イノベーションは、新しいテクノロジーをゼロから発明する孤独な天才によって引き起こされると考えるなら、その考え方は必然的に、特許保護の強化のような政治判断へとつながる。しかし、イノベーションが協調のネットワークから生まれると考えるなら、別の政策や組織形態を支持しなくてはならない。

本書で紹介される様々なイノベーションは、たしかに中心となった人物がいるが、一人の天才が誰も思いつかないことをある日突然ひらめき、具現化したというものではないということだ。

その着想自体は誰も考えつかないような創造性あふれるものではなく、類似の発明やアイデアが同時多発的に起こり、それがつながることでイノベーションが起きるのだ。

〈反〉知的独占(感想文13-17)でも指摘されているが、現在の特許制度に対する批判は少なくない。確かに現在の制度は、どのようにしてアイデアが生まれ、結実し、イノベーションになるかという、人間の創造性の在り方まで考慮されて設計はされていない(特許制度ができたときにイノベーションという概念はなかったので当然ではあるが)。独占による弊害の方が大きいのかもしれない。とはいえ、完全に否定できるほど本書で明確な根拠が指し示されているとはいえない。

イデアは協調のネットワークによって生まれ、ひとたび世界に解き放たれると、ひとつの分野にしばられることのない動きの変化を始める。

興味深いのは、ハチドリ効果だ。本書の事例で言えば、グーテンベルク活版印刷がメガネ市場を生み出したこと、フラッシュ撮影が都市の貧困撲滅運動につながったこと、ラジオで音楽が流れるようになり公民権運動が盛んになったこと、塩素によって水が清潔になり女性の露出が増えたことなどだ。後付で説明を受ければ納得できるかもしれないが、同時代に生きていたらそういった予見は極めて困難だったろう。

文字どおりにも比喩的にも、地図に載っていない領域を探ったほうがいい。同じルーチンに気楽に収まったままでいるより、新しいつながりをつくるほうがいい。世界を少しよくしたければ、集中と決意が必要だ。ひとつの領域内にとどまり、隣接可能領域の新しい扉を一度にひとつずつ開ける必要がある。

イノベーションを起こすのであれば、あるいは世界をつくるのであれば、専門領域という縛りから外れた荒野へと足を踏み出す必要がある。越境し、破境し、孤高の天才ではなくネットワークを張り巡らし、アイデアを生み出し、つなげ、それらを自由に解き放たなければならない。

そういえば昨年、アイデアを生み出すためのワークショップに参加した。普段とは異なる頭の使い方をしたので疲弊したが、刺激的で充実した時間だった。
特定の人間だけが、アイデアを生み出せるのではない。ちょっとした工夫やツールを使うことで誰しもが次々とアイデアを生み出せるのだ。人間にはそういう能力が付与されているのだ。

これからも世界は変わり続けるだろう。ありふれたアイデアが思いもよらない社会変化を引き起こす。より良い未来が待っていると信じたい。

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(感想文の感想など)

この本、面白かったんだよね。著者であるスティーヴン・ジョンソンさんの他の著作も読んでみたい。