40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文08-55:プリズン・ガール―アメリカ女子刑務所での22か月

※2008年10月15日のYahoo!ブログを再掲

 

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前回(感想文08-54:告発! 検察「裏ガネ作り」)に続いて、獄中記シリーズ第二弾。

急に獄中記を読んでみたくなった。こういう好奇心は、自分が、生涯、刑務所にぶち込まれることを前提にしていないからこそ生じる心理だ。

本書は、ドラッグディーラーのロシア人マフィアの彼女であったために、“不運”にも麻薬売買に加担したとして有罪判決を受けてしまった、20代前半の日本人女性による、主としてアメリカ連邦刑務所の体験記である。

ぼくは二つの視点から読むと面白いと思う。一つは純粋に女性視点からのアメリカの刑務所の体験記として。もう一つは、日本人目線でのアメリカ最底辺社会のリアルとして。

感想文08-25:ルポ貧困大国アメリカを読んだときにも衝撃を受けた。貧者が戦争の道具になっている現実が描かれていたからだ。

本書では、トモミ(そう呼ばれているので、ぼくも呼んでみよう)の性格のおかげだろうけれど、刑務所体験記はかなり明るく描かれている。ヘビーな内容でも暗い気持ちにならずに軽く読むことができる。

逮捕時、トモミは逮捕されたことよりも、恋人のロシア人が自分のことを騙していたこと(他にオンナがいて、しかも子どもまでいて、さらにトモミの部屋を麻薬取引場所にまでしていたこと)の方に強い衝撃を受けていた。オジサンには理解しがたい、恋に生きる若い女性らしい感受に、ぼくも少なからず衝撃を受けた。

アメリカの刑務所には、ある種の自由があり、友情があり、恋愛があり、諍いがある。

アメリカ社会の縮図ともいえるし、そこで生き抜くためには、シャバと同じくらい大変なのだ。

そして、シャバと同じようにお洒落をしたいという欲求もあるし、おいしいものを食べたいという欲求もある。普通の女の子としての欲求を満たせ得ない環境であるがゆえに、できる限りのことをしようと行動する。そういうガールズサイドの視点は読んでいて新鮮で面白かった。

もう一つの視点。つまり、収監されている女性は、すべからくアメリカ社会の最底辺の人間たちで構成されているという現実について、考えてみたい。

多くは小さい頃に国外から親に連れられて、アメリカに滞在している。選べる職はなく、その多くは食うに困り、物心ついたころから、ギャングの一員となり、ドラッグディールに手を染める。それが家計を支え、生活の糧になるが、当然、長く続けることはできない。

非合法な商売をしているだけでなく、縄張り争いがあり、暴力が絶えない。

ある者は、警察に捕まり、禁固刑になる。ある者は、麻薬中毒になる。また、ある者はHIVキャリアとなり、そしてまたある者は暴力抗争の果てに路傍で冷たくなり人生を閉じる。

本書では、露骨なアメリカ社会の矛盾をまざまざと見せつけられる。そこまで落ちてはいない、不運なだけの、トモミだからこそのある種の冷静な視線がある。

それでも、なぜそんなアメリカに多くの人は惹きつけられるのか。

一つは自分の生まれた国よりも遙かにマシだから、というのがあるだろう。そしてアメリカは基本的に誰でも受け入れる懐の深さがあるからだろう。

それでもアメリカはルール違反に対しては厳しい。一度、有罪になると国外退去となる。ルール違反をしないと生きていけないような人間を受け入れる一方で、ルール違反が明らかになれば、追い出してしまう。

矛盾しているように思えるこのシステムによってアメリカは新陳代謝を繰り返し、エネルギーを維持しつつ、徐々に変貌していく。そういうところもアメリカの魅力なのかも知れない。

今、アメリカに陰りが差し始めている。

エネルギーは常に発散を求める。それが、差別や悪意や暴力の方向に進み出したときに、ドラスティックな転換が起きてしまうかも知れない。そして、それには必ず、貧者の流血が伴うことになるだろう。

 

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(感想文の感想など)

15年前の自分の感想文を読み直すと新鮮だ。アメリカには3回行ったことはあるけれど、住んだことはない。住んでみたいともあんまり思えない。

15年前に「今、アメリカに陰りが差し始めている。」と書いている。そうか、リーマンショックがあったのだ。世界全体が金融危機に陥り、日本では派遣切りや雇い止めが発生し、年末年始に年越し派遣村が開催された。そうか、2008年はそんな年だったか。

アメリカ 暴力の世紀(感想文18-14)アメリカについて言及しているが、国としてどんどんヤバくなっている気配がある。

相変わらず銃乱射は頻発し、ドラッグは蔓延し、経済格差は凄まじい。来年に大統領選挙があるが、共和党でのトランプ支持率は圧倒的で、民主党では80歳のバイデンが再選を目指している。どっちになっても地獄の様相である。

アメリカ人はこの状況をどう捉えているのだろうか。不思議の国アメリカ。だからこそアメリカについての言説は絶えないし、本も多く出版される所以なのだろう。