40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文17-24:人質の経済学

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※2017年5月30日のYahoo!ブログを再掲。

 

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前からの気になって読んでみたかった本。○○の経済学というタイトルでは、「学力」の経済学(感想文16-20)以来かな。

本書の原題は『Merchants of Men』である。直訳すると人間の商人であり、もうちょっと分かりやすく意訳すると人間の商品化という感じだろうか。

本書で興味深かったのは、こういった悪徳ビジネスですらピボット(事業の方向転換)が起きるという事実だ。当初は、危険な地域に訪れた先進国の人を誘拐し、身代金を要求する、人質ビジネスが主流となった。

しかし、あいにくこのビジネスは長くは続かない。誘拐が頻発すると、そもそもその地域を訪れる人がいなくなってしまうからだ。そこで次のビジネスだ。それは難民の密入国斡旋ビジネスだ。

いわゆる貧困ビジネスであり、困った人を喰い物にしている。お金を持っている難民から絞り取れるだけ搾り取り、お金がなければ奴隷としてこき使う。

商人たちは商品価値をよく知っている。人質となる先進国の人間は、それなりに丁重に取り扱う。しかし、

誘拐組織にとって、人質は拉致した瞬間から毎日毎日コストのかかる投資対象となる。(p.44

とあるように、人質は維持コストがかかってしまう。交渉が長引けば、それだけ開放するための価格は高騰するし、場合によっては、殺害することで他の人質の価格を釣り上げることにも利用される。

どの国の政府もじつは人間に優先順位をつけている。そして、人質ごとに払ってもよい金額を決めている。言い換えれば、誘拐組織のみならず政府も人質一人ひとりを値踏みし、この命とあの命に重みをつけているのである。(p.38

政府にとっても、例えば政府高官、あるいは現地で働いてた自国の医師などは救出する優先順位が高くなる。他方で、危険地域であることを知りながら、それを承知で乗り込んだカメラマンやジャーナリストに多額の費用を支払おうという気にはならないだろう。

人の命には相場がある。だからこそ、こういったビジネスが成立する、してしまうのだ。

一方で、密入国斡旋ビジネスは薄利多売といえる。殺されるよりはマシという難民たちの状況を利用する。座る場所もなく、窓もないトラックに詰め込み、小さなボートに定員を遥かに超える難民を搭載する。

第二次世界大戦以来の大量難民の発生は、ヨーロッパの小悪党にとって絶好の商機を提供しただけではない。人道支援組織や個人起業家にとっても、利益を手にする機会が目の前に出現したことになる。(中略)巨大な「合法的」産業が出現し、またもや補助金として税金が投じられることになった。(p.256-257

難民は商機となった。人道支援という名目で投じられた補助金に群がるのは、何も悪徳商人だけではない。美辞麗句で彩られたNPO法人が、極めて悪質ことに手を染めている場合もある。日本の震災復興や除染作業で投じられた国費も、同様に商機となっているのだろう。

さて、今の日本は、北朝鮮問題で過敏になっている。そもそもアメリカがシリアに軍事攻撃を行ったことで国際情勢が大きく変わった。シリア政府軍が反体制派に化学兵器サリン」を使ったことへの対応なのだが…。

シリアの反政府組織は、「アラブの春」が生んだ「自由のための戦士」にはほど遠い。彼らはジハーディスト、ギャング、地元の部族、犯罪者、テロリストの混成集団であり、貪欲に金と武器を欲しがるだけだ。(p.115

とまあ、シリアの政府軍も反政府組織もどちらも碌でもない集団なのだ。だからといってサリンの使用が許容されるなんてことは全くないが、反政府組織も誘拐するし、単なるギャングと変わりはしない。正義と悪といった二項対立は存在せず、どっちも悪党なのだ。

そして北朝鮮にもアメリカが軍事攻撃を仕掛けるかもしれないという報道がある。北朝鮮が日本にテポドンをぶち込むという反撃に出るかどうかよりも、多くの難民が生み出される可能性がある。

アフリカから地中海を渡ってくる人たちがいる実態を考えると、海を隔てているから大丈夫かというとそうでもない。同様の密入国斡旋ビジネスが中国で生まれる蓋然性は十分にある。

ブレグジット1年前から、大量の難民の流入という圧力を受けて、ヨーロッパという要塞では内部崩壊が始まっていたのである。とはいえ難民は、欧米がとってきた愚かな政策の犠牲者にほかならない。その最たるものが911への対応と称する対テロ戦争さらにはイラク侵攻であり、これが大量の難民を生む根本原因となった。(p.267

難民問題(感想文17-19)によって世界全体が大きく混乱している。北朝鮮は挑発を繰り返し、核兵器開発を進めている。国家としての体はなしているかどうかは微妙なところだが、この国が崩壊すれば平和が訪れるというような単純な話でもない。

難民が溢れ、陸続きの韓国や中国に流入することは確実だろう。そういう状況になれば、日本が受け入れないことについて国際社会から批難を受けるかもしれない。

北朝鮮を攻撃したことが、近未来の北東アジアの難民問題発生の根本原因となる。このシナリオは北朝鮮が日本に攻撃を仕掛けてくるよりも現実的ではないだろうか。

人間は残酷だ。人間が人間を商品化し、取引し、効用を生み出す。こういった取引が成立すること自体が、こういったビジネスを生み出すインセンティブとなる。

クライシス・キャラバン(感想文14-13)では、善意という怪物のおぞましさに戦慄したが、本書では人間それ自体が怪物でしかないという事実を突きつけられ、うち震える。

戦争が始まれば、そして、難民問題が発生すれば、私たちは否応なく巻き込まれてしまう。愚かな人間が、愚かな選択をし、愚かなビジネスを始める。多くの人間が死に、環境は破壊され、国家が破綻する。規模が大きくなり、頻度が高まる。このサイクルは終わらないのだろうか。愚かな人間が自滅するしかないのだろうか。

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(感想文の感想など)

人間のおぞましさに恐れ慄き、また自らも人間であることに失望する。

仙水が闇落ちするのも理解できる。え?ネタが古いって?

ロスジェネのオバフォーなんだから仕方ないよね。