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感想文09-54:ムハマド・ユヌス自伝 貧困なき世界をめざす銀行家

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※2009年8月25日のYahoo!ブログを再掲。

 

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以前読んだグラミンフォンという奇跡(感想文09-50)に引き続き、マイクロクレジット関係の本。

マイクロクレジット創始者であるムハマド・ユヌスの自伝。これまでの銀行とは全く反対の業務を行うグラミン銀行を立ち上げ、まさに貧困のない世界を目指している。

本書が発売されたのが1998年。訳者あとがきに、いつの日かユヌスがノーベル平和賞を受賞することは間違いないと記されていた。実際にユヌスは2006年にグラミン銀行とともにノーベル平和賞を受賞している。

本書はまさに自伝で生い立ち、マイクロクレジットの試み、銀行の立ち上げ、哲学、新たな展開とユヌスの小さな実験が、大きく飛躍し展開していく様が生き生きと描かれている。

そして、本書を読めばバングラディッシュが抱える苦悩の大きさを知ることになる。貧困、飢餓、女性の地位の低さ、自然災害、腐敗した行政。多額の資金援助でさえもなしえない貧困のループからの脱却を非常に少額で多数の投資(マイクロクレジット)により達成した。

グラミン銀行の行員はみな村へ出かけ、マイクロクレジットの重要性を説く。そして、貧しい女性に少額の投資を行う。女性たちはグループを形成し、返済できるように連帯を持たせる。これが一見簡単そうだけれど、実際には非常に難しいグラミン銀行の業務だ。

ぼくらが思い描く普通の銀行とは全く正反対。このユニークすぎる試みには、立ち上げ当初から多くの批判があった。それでもユヌスは辛抱強く、信念を持って、一つ一つ障害を越えていった。

グラミン銀行は、急速な変化を産み出すものではない。しかし、ゆっくりと着実に一歩一歩前進し、さいごには大きな変化を産み出す。

どのノーベル経済学賞よりも価値のある取り組みだったと思う。だからこそ、平和賞でなく、経済学賞を授与して欲しかったとも思う。ユヌスは元々経済学者であるのだから。

そして、マイクロクレジット以前の大がかりな援助がいかに無意味で、無策だったのかも分かる。そして、それらの取り組みが善意でなされえていたことも皮肉だ。良かれと思っての行動が、巡り巡って貧困をより根深いものに変えていってしまったのだ。

ルポ貧困大国アメリカでは、先進国での貧困ビジネスの実態が赤裸々に書かれていた。貧者を食い物にするおぞましい商売。貧者を作り出し、最底辺の労働力へと加工する。現代の奴隷。

同じく貧者を対象にしたビジネスという意味では、貧困ビジネスともいえるマイクロクレジット。だがその背景にある哲学は全く異なる。貧困を無くしつつ、商売も成り立たせる。ユヌスはこの不可能のように思えるミッションを成し遂げた。

日本は欧米の先進諸国の制度だけを参考にするきらいがあるが、ユヌスの哲学は日本でも大変参考になると思う。バングラディッシュほど苛烈ではないにせよ、日本にも貧しい人たちはいる。生活保護を受けたりして、何とか生活を維持している。

しかし、その制度に、あるいはその運用に、貧困からの脱却という観点は本当にあるのだろうか。

貧者が自立する最短の道は、自営だ。そのためにも簡単にお金を稼げる(楽にという意味ではないよ)制度を作るべきだと思う。

そして、所属する組織を失い、路頭に迷ったとき(今では決して珍しくない)に、どうやって商売を立ち上げ、生活するのか、あらかじめ自問しておくことが必要だろう。

貧困の根絶に必要なのは、善意ではない。知性と信念。そして自営だ。

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(感想文の感想など)

ユヌスによるマイクロクレジットの取り組みは素晴らしいと評価できるものの、その限界と課題はその後の実証研究によって明らかにされている(貧乏人の経済学(感想文13-05)参照)。