※2014年4月10日のYahoo!ブログを再掲。
↓↓↓
”悲惨な現場”を求めるNGOの活動がアフリカで招いた不都合な真実を見て、本書を読んでみた。これまでに貧乏人の経済学(感想文13-05)などで途上国の貧困問題に関する本を読んできたが、本書はそういった本とは一線を画している。
本書のタイトルとなっているクライシス・キャラバンとは『危機を追って移動する一団』と翻訳されている。
クライシス・キャラバンは確かに援助をする。しかし、その姿はおぞましい善意の怪物のように感じる。
クライシス・キャラバン(危機を追って移動する一団)は、援助を紙吹雪のようにばらまきながら、いつでもどこでも自分たちが適当だと思う場所に移動する。一団は、ドナー・ダーリング(ドナーのお気に入りの国々)ではバケツの水をひっくり返したように援助を行い、ドナー・オーファン(ドナーに見捨てられた国々)では、少量程度の援助で済ませなければならない。あるいは何もしないこともある。
援助される金額に国ごとに偏りがあるのはもちろんのこと、援助される国内においても偏りが生じている。
本書の問題意識は以下のとおりだ。
もし援助が戦争行為における戦略的な一面になっているのなら、人道援助機関が中立であると主張することは正当化されるだろうか。
困った人がいるから助けたい。この(純粋な)思いに批判や非難は届きにくい。しかし、だ。
フツの過激派たちが、ゴマのUNHCRのキャンプからルワンダのツチに対して根絶やし作戦を遂行することができたのは、豊富な人道援助があったからこそである。
とあるように、実質的に戦争を援助しているケースもある。ルワンダの内線のことは、正直よく知らない。きっと援助している団体に寄付(ドネーション)する人たち(ドナー)もよく分かっていないだろう。手足を失った子どもや、目蓋に止まったハエを追い払うでもなく遠い目をしている子どもの写真を見れば、少しでも助けたいと思うことだろう。
しかし、寄付金がどこに渡されるのか、難民たちが被害者ではなく加害者の方であるという事実、そもそもフツとツチを見分けることもできないだろう。
世界中の難民キャンプに住んでいる人たちの15~20%が難民戦士であり、キャンプでの食事と治療の合間に戦争を遂行しているのだ。
ドナーは困っている人を助けるために寄付をしていると思っているだろうが、寄付されたお金はより戦争を長期化し、より戦争を激化し、より困った人を増やすことに費やされているかもしれない。
食糧援助はあきらかに政権に対峙する敵をおびき寄せる餌として使われていたのだ。時々平和村は物資を受け取ってしばらくしてから襲撃され、コメの入った袋は政府寄りの民兵組織によって運び去られるのだった。
食糧も同様だ。援助された食糧を利用して腹を空かせた敵対する部族をおびき寄せ一網打尽にする。
なぜこういうことが起きるのだろうか。
契約が切れて現地の人々がこれからどうやって生きていくのかに思いをめぐらせるどころか、それよりも援助機関は自分たちがこれからどうやって生き残っていくのかを心配させられるのだ。それが契約システムなのだ。
援助する組織は、現地の悲惨さを裕福なドナーにアピールし、資金を集め、現地の指導者と契約し、援助する。しかし、援助組織の目的が恒常的に資金を集め、組織の活動を維持することへと変容していく。目的が歪む。困った人を助けるという崇高な目的が、組織の維持へと変わると、資金を集めることが目的となる。
結果、資金を集めやすくするために、より悲惨な状況に置かれた国が注目されるようになり、援助を求める国はより悲惨な状況を作り出すインセンティブが生まれる。人は悲惨さに慣れる。ドナーはより刺激的な映像を欲しがるようになり、ここに言葉で書くのも憂鬱なほど、そして人間の想像力と実行力の凄まじさにある意味感心してしまうほど悲惨な状況がお金のために人為的に生み出される。
端的に言えば援助組織を維持するために不幸が生産されているのだ。
車椅子に乗った人が赤信号なのに車椅子を押して道路を渡らせてあげようとする親切心一杯の人々から守られる権利があるように、戦争地帯にいる犠牲者たちも援助活動から守られる権利を持っていると考えよう。
私たちは、善意があれば何をしてもOKと考えたがる節がある。援助活動から守られる権利について私たちはもっと意識的に考えた方が良いのではないか。
「W-A-Rが意味するのは『Waste All Resources(すべての資源を無駄にする)』ってことだ。すべてを壊せ。そうすればあんたたちがやって来て直してくれるのさ」
本書で印象的だったアフリカの兵士の言葉だ。援助を受けるためにすべての資源を無駄にするインセンティブが働いている。止血するための費用を稼ぐために、新しい傷口をえぐって作り出すように。局所的な幸福の対価として、全体としては不幸になっていく。
本書で、援助が孕む矛盾を目の前に突きつけられる。人間はいつの時代も愚かだ。私の、あなたの無知な善意が誰かを傷つけている。遠い世界の誰かの不幸はビジネスになるという現実に背筋が凍る。
↑↑↑
(感想文の感想など)
「援助活動から守られる権利」というのは、結構ショッキングな言葉だ。
クライシス・キャラバンについては2014年当時話題になったが、その後は続報を聞かない。
グラミンフォンという奇跡(感想文09-50)にある、ユヌスの哲学「施し物は独立心を奪い去り、貧困を継続させる」よりも現実は苛烈だ。端的には「援助は暴力を生み出す」となる。
現実を知ると暗澹たる気持ちになる。