40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文13-43:自爆する若者たち―人口学が警告する驚愕の未来

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※2013年7月9日のYahoo!ブログを再掲。

 

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静かなる大恐慌(感想文13-35)において『ドイツの人口学者グナル・ハインゾーンは、今、新興国で起きている若年人口の増加(ユース・バルジ)が、政情不安やテロ、内戦などを引き起こす原因だと指摘しています。』という記述が気になり、読んでみたのが本書。

バルジという言葉は、英語のbulgeで膨らみという意味とのこと。巨大投資銀行(バルジブラケット:bulge bracket)でも使われている。

「ユース・バルジ」の「バルジ」とは、年代別の人口をグラフに表した人口ピラミッドの「外側に異様に膨らんだ部分」を指す言葉である。したがって、「ユース・バルジ」を強いて訳せば「過剰なまでに多い若者世代」とでもなるだろうか。

本書を読んで、ユース・バルジという言葉を初めて知り、そして人口が急激に増えることの恐ろしさを感じた。著者のハインゾーンは、ドイツの研究者で専門はジェノサイド学とのこと。そんな学問があることすら驚きだけれど、幾度と無く戦争を繰り返しては、夥しい血を流してきたヨーロッパだからこそ、という感じがする。

著者の主張は明快だ。暴力を引き起こすのは貧困でもなければ、宗教や民族・種族間の反目でもない。人口爆発によって生じる若者たちの、つまりユース・バルジ世代の「ポスト寄越せ」運動、それに国家が対処しきれなくなったとき、テロとなり、ジェノサイドとなり、内戦となって現れるのだ。

戦争において、虐殺が起きると、人間の恐怖心とか、生物としての本能とか、民族性とか、そういったことを背景として考える。しかし、本書の主張はシンプルで、虐殺の原因は人口爆発としている。

最近、というか私が既に物心ついたくらいからだけれど、今の若者は元気が無いとか、生きる力が乏しいだとかそういった非難をよく聞く。学生運動のようなことは日本で起きてはいないし、起きそうもない。

でも、当時の学生たちがエネルギッシュだったからというのではなく、単にその世代の人口が増えたために、ポスト欲しさに暴れただけ(虐殺は起きてないだけマシなのかもだけれど)とも考えられる。

若者が過剰になると必ずと言っていいほど、流血を伴った領土の膨張や国家の建設と滅亡を見ることになるということが示されるはずである。

本書ではその事例が山のように提示されている。実証的に示されていなけれど、かなりの説得力を持っているので、納得させられそうになる。

飢えている人たちに不安は覚えない。だが、飢えや文盲の克服がうまくいけばいくほど、上昇志向の若者は好戦的になっていく。飢餓との戦いに勝利すればこの世から戦争はなくなるだろうという世間一般の願望は、戦略家から見れば、愛らしくも無邪気な幻想の最たるものでしかない。

この点も印象的だ。飢えは虐殺の脅威ではない。餓死者は問題だろうが、その問題を解消した結果、虐殺が起きるかもしれない。飢えているから戦争が起きるのではない。満腹になり、自らの将来のポストを求めることが可能となって、戦争が起きるのだ。

ユース・バルジというのは、後を襲う息子たちの「求めるポスト数」対「実際に就けるポスト数」の割合から生じる。

ということで、仕事が大事。若者の就職率が低く、人口が高騰すると、戦争の危険性が増大するのだ。

<アラブ大変動>を読む(感想文12-10)にあるように『(チュニジアジャスミン革命の背景として)高い失業率と若者の人口比の高さ』が挙げられている。これはまさにユース・バルジ論と同じだ。

新技術を取り入れるのが上手い若者たちは、ソーシャル・ネットワーク・サービスを利用して、協調し、さらに革命が起きやすくなっているのかもしれない。

虐殺、戦争、革命。これらは言葉では異なっているが、その様相は見解の相違なだけかもしれず、そしてその原因はいずれもユース・バルジにあるのかもしれない。

若者人口の増加という極めて単純な現象が、世界の混乱を引き起こしているかもしれないことについて、私はあまりに無自覚だった。人が多く死ぬ背景には、人が多く生まれている。人間の社会性について考えさせられた一冊だ。

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(感想文の感想など)

日本ではユース・バルジをイメージしにくい。多いのは高齢者なので、オールド・エイジ・バルジとかになるのだろうか。

人口問題については改めて考えてみたいテーマの一つ。