40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文14-01:天才と異才の日本科学史 開国からノーベル賞まで、150年の軌跡

f:id:sky-and-heart:20200301154414j:plain

※2014年1月16日にのYahoo!ブログを再掲。

 

↓↓↓

本書は、日本の科学史150年をぎゅーっと詰めこんでいる。大きな歴史の流れの中に、多数の科学者やトリビアルな事実が散りばめられている。

湯川秀基、朝永振一郎といった初期のノーベル賞受賞者から、最近の南部陽一郎下村脩らの研究内容まで、時間でも分野でも幅広い内容をコンパクトにまとめている。

本書には、初めて知ったことがたくさん載っている。その一部を備忘録的に挙げておこう。

蒸気エンジン、電話、舗装道路、自転車、タイヤ、石炭ガス、ライフル銃、さらに、後のペニシリンも麻酔薬もテレビも、すべてスコットランドで誕生している。

明治新政府グラスゴー大学のケルヴィン卿とのパイプをきっかけに、スコットランドから技術を吸収していった。イギリスで産業革命が起きたという認識だったけれど、その実、スコットランドで多くの発明が生まれていた。スコットランドは日本に気前よく技術を移転し、日本の近代化に大きな貢献をしてくれた。

後年、ノーベル賞選考委員会の資料が明らかにされている。第1ノーベル賞受賞者として黄色人種はふさわしくないと書かれていた。

これが、北里柴三郎ノーベル賞を取れなかった理由とのこと。当時の日本人科学者の業績からすると、もっと多くのノーベル賞を受賞してもおかしくなかった。

ホルモンというものの最初の発見者は高峰譲吉だ。北里柴三郎に続き、彼もノーベル賞に十分過ぎるほどの業績をあげていた。

高峰譲吉は、事業家としての顔が知られている。しかし、ノーベル賞を受賞するに相応しい偉大な科学者でもあったのだ。

ボーアの弟:弟も優秀だった。(中略)兄よりも先に博士号を取り、数学者になって活躍する。その上、サッカーのデンマーク代表としてオリンピックに出場し、銀メダルを獲得している。ニールス・ボーア自身もデンマーク随一のゴールキーパーだった。

量子革命 アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突(感想文13-66)では、描かれていなかったスポーツマンとしてのボーア。弟は数学者でありオリンピック銀メダリスト。何ともすごい。天は二物を与えている。

右翼の北一輝、軍部エリートの石原莞爾そして宮沢賢治も、日蓮上人あるいは法華経を熱烈に信仰していた。

これは、血盟団事件のこと。ウィキペディアによると

19322月から3月にかけて発生した連続テロ事件。当時の右翼運動史の流れの中に位置づけて言及されることが多く、事件を起こした血盟団日蓮宗の僧侶である井上日召によって率いられていた集団であった。

とのことで、何となく事件の名称は知っているが、その実態は全く知らなかった。そして、日蓮上人と法華経のこともあんまり知らない。時代的には世界恐慌1929年)の少しあとくらい。関係する本を読んでみたい。

木々高太郎の筆名で直木賞受賞

木々高太郎とは、林髞(たかし)のペンネーム。ソ連でパブロフに学んだ生理学のエリートだ。小説を書いて直木賞も受賞し、江戸川乱歩に影響を与えたとのこと。ちょっと読んでみたいが、文体があまりに古いと読むのは辛いんだよなぁ。

南部による多くの予言の中で、特に有名なのが三つある。第一が、「ひも理論」、第二が、「量子色力学」、第三が「対称性の自発的な破れ」だ。

おお、すごい。この3つを予言してただなんて。どれも超有名じゃないか。分からない方は宇宙は何でできているのか(感想文11-25)が参考になります。南部先生はかなりすごい方なんだ。

日本陸軍は戦争中、世界最大規模の細菌戦研究を行っている。その中枢は陸軍軍医学校の防疫研究所にあった。その実働部隊は旧満州ハルビン郊外の731部隊を筆頭に、中国とシンガポールに全部で5つあった。(中略)各部隊とも日本全国から研究者を募り、従事者は1000名を超える大部隊であった。

そして、本書では、何も日本の科学史の良い話ばかりが取り上げられているのではない。戦時中の731部隊の人体実験や、最近の原発問題も扱っている。科学には光の部分があれば、闇の部分もある。人間の活動であるから、当然と言えば当然。

日本人として誇らしい気持ちと恥ずかしい気持ちがないまぜになる、そんな一冊。

↑↑↑

 

(感想文の感想など)

パスツールの「科学には国境はないが、科学者には祖国がある」という有名な言葉を思い出した。

グローバルな活動である科学と、ナショナリズムに苛まれる科学者というのは、国内外問わず枚挙に暇がない。

今の日本の科学はどうだろうか。科学の世界での日本の存在感は激減している。科学者への新規参入も激減している。

十数年後の未来から見ると、今の日本の科学は暗黒期なのだろうか。それとも長く続く暗黒期に入ろうとしている時期なのだろうか。

至極単純化してグローバリズムナショナリズムの対立構造から見ると、科学は国家存続の脅威とみなされているとも言えるし、国家が科学者を従属(あるいは隷属)させようとしているとも言える。現代はそれがより先鋭化しているのだろうが、地球規模の環境問題の解決に向けてどのように国家が科学と折り合いをつけていくのか、今後ますます注視していく必要がある。