40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文15-49:海賊と呼ばれた男

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※2015年12月9日のYahoo!ブログを再掲
 
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2013年に第10回本屋大賞を受賞した有名な作品。私はあとがきを読んで知ったのだが、ウィキペディアにあるように『主人公の国岡鐡造は出光興産創業者の出光佐三をモデルとしている。国岡鐡造の一生と、出光興産をモデルにした国岡商店が大企業にまで成長する過程が描かれている。』という作品だ。
企業としての出光は、車を持っていない私にとっては、テレビCMで見かけるくらいでしかないが、こうして今も残る企業と創業者の非常に面白い話を知ってしまうと急にその企業を応援したくなってくる。

大東亜戦争とは、石油のための戦争であり、石油のために敗れた戦争でもあった。

というのはまさにそのとおりで、石油を持たない日本は、石油を手に入れるために戦争に突入し、そしてその石油のために敗れ去ったのだ。敗者の烙印を押された日本の一企業である国岡商店が、あらゆる障害を乗り越え、世界を相手取って戦って、成功していく姿は痛快かつ見事であり、勇気をもらい、熱い気持ちになる。

国岡鐡造の考え、信念、振る舞い、行動が、とにかくかっこいい。時代や社会情勢に関係なく、国岡鐡造という人物に多くの読者は惚れ込んでしまうだろう。
ちなみに実在する出光佐三(1885-1981)は、北原白秋正力松太郎武者小路実篤ニールス・ボーアと同じ年生まれ。かなり長生きした方なので、わずかだけれど私と同時代を生きてもいる。
ということで、気になる箇所をいつものように挙げておこう。

鐡造の「人間尊重」は彼の強い信念であり、金科玉条であった。それゆえ国岡商店には就業規則もなければ出勤簿もない。馘首もなければ定年もない。

 鐡造にとって社員は家族だった。深い信頼関係が構築され、社員は遮二無二働いた。だからこそ国岡商店は競合他社から睨まれ、疎まれ、怖がられた。

驚くべきデータがある。財団法人「日本殉職船員顕彰会」の調べによれば、大東亜戦争で失われた徴用船は、商船3,575隻、機帆船2,070隻、漁船1,595隻の計7,240隻。そして戦没した船員、漁民は6万人以上に登る。彼らの戦死率は約43%と推察され、これは陸軍軍人の約20%、海軍軍人の約16%をはるかに上回る数字である。

これほどまでに漁船と漁民が戦争で犠牲になっていたことを知らなかった。太平洋には数多の船が沈み、尊い命が海に飲み込まれた。そのほとんどは遺骨はなかったことだろう。こうして数字を見ると戦争による犠牲の多さに慄く。

正式な国交さえなかった二つの国が、石油という太いパイプで結ばれようとしていた。その奇跡を起こしたのは、日章丸という一隻のタンカーだった。

先日、日本とイランでサッカーの代表戦があった。イランといえば、遠い国で、日本は石油を輸入しているくらいにしか認識していなかった。イギリスから搾取されていたイランが、一つの国として独立し、日本と石油の取引を行う。しかもそれを切り開いたのは、一企業なのだ。イランと日本の間にこんな歴史があったことはついぞ知らなかった。

イラン国営石油会社をあのような汚い手口で乗っ取ってしまうメジャーもアメリカ人なら、BOAのように国岡商店の経営理念に多額の融資をするのもアメリカ人ということに、アメリカという国の持つ底知れぬスケールを見たような気がした。

私はアメリカで生活したこともないし、日常的にアメリカ人と付き合いがあるというわけでもない。とはいえ、アメリカという国はどうにも不思議というか、面妖というか、何とも理解し難いところがある。とはいえ、確かにスケールがでたらめにでかい。そこがアメリカの魅力と言える。

省庁や銀行から天下り官僚や出向役員を受け入れて、彼らとの良好な関係を築くのが定石となっている日本の慣習に真っ向から歯向かってきたと言える。

この点も国岡商店らしいところだ。うちの会社も官僚を受け入れている。これはもう仕方ないことになっているけれど、何ともアホらしい日本の慣習だ。

さて、鐡造の生涯を通しての座右の銘は『士魂商才』である。つまり『武士の心を持って、商いせよ』という意味だ。
鐡造は自分の会社の利益を再優先して考えていなかった。常に国のためということを考えていた。士魂を持っていたからこそ、大きな決断をし、誰もなし得なかったことをいくつも成し遂げた。
日本は戦争に敗れ、どん底から奇跡の復活を遂げた。こうして文章にすると簡単だが、そこには懸命にその時代を生き抜き、障害や失敗を乗り越え、切り開いた人間が存在していたからこそ、達成できたのだ。
今の日本には成長が求められている。伸びしろがまだあるのか分からなけれど、停滞は許されない。どの時代にも鐡造のような人間は求められるし、そしてまた存在しているはずだ。
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(感想文の感想など)
出光といえば、昭和シェルと統合しようとしたが、創業家から反対されてゴタゴタしたことがニュースになっていた。
最終的には創業家の持ち株比率を下げることで影響力を減らし、2019年4月に経営統合によって、昭和シェルは完全子会社となった。
経営統合はそれぞれにいろんなドラマがあるだろう。吸収する側、吸収される側、さらに創業家や大株主など入り乱れての闘争が起きているだろう。このあたりが何かしら本になったら読んでみたい。