※2010年12月21日のYahoo!ブログを再掲
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本書は、絶対計算がもたらす現在と近未来を描いている。はてさて、絶対計算って何？
絶対計算とは何だろうか。それは現実世界の意思決定を左右する統計分析だ。
ということで、難しい話はさておき、絶対計算とは統計分析のことだ。
情報化社会と言われてずいぶん久しく、世の中には大量の情報が溢れている。情報によって世の中が混沌としているように映る一方で、その大量情報から予測が生み出されている。
本書では、ワインの値段、メジャーリーガーの成績、医療、教育などなど、実に多岐にわたって世の中の様々なことに絶対計算が用いられている事実を示している。
その一方で、これまで専門家と言われてきた人たち、先程の例で言うと、ワインのセールスマン、スカウト、医師、教師といった人たちの専門性や権威は木っ端微塵に吹き飛ばされつつある。なぜなら、
何十年にもわたり、社会科学者たちは絶対計算と伝統的な専門家たちの予測精度を比較してきた。そうした調査を追う毎に、勝つのはいつも絶対計算という強い傾向が出てきているのだ。
ということで、計算の枕詞に絶対がついているのは、専門家と比較して、予測性能が相対的に優れているとか、精度が高いとかそういうのではなくって、もはや絶対的にスゴいということなのだ。
さてさて、個人的には医療のことが興味深い。修士課程の頃に医療統計をかじっていたこともあって、日本ではあんまり馴染みがないし、そもそも間違って使われることのあるEBM（Evidence-Based Medicine）について、本書では一章をさいて書かれていた。
ある医療行為が本当に患者にとって有益かどうかについて判断するのは難しい。しかし、現代の医療では、根拠のないものは医療として認めてはいけないという状況になりつつある。代替医療のトリック（感想文10-49）にあるように、代替医療がはびこるのはおかしい。
しかし、本書では代替医療のトリックよりももう一歩深いところをついている。それは医師の裁量だ。EBMは医師でなくてもできるし、むしろ医師の経験に基づく医療は患者に害をなすかもしれない。
医師の裁量を減らすほうが患者の安全は改善される
というのは、なかなか強烈なメッセージだ。医は仁術という古い言葉から、医は絶対計算になることが、本当に患者にとってもハッピーなのか、こう問われるとなかなかすんなりと答えにくい。
専門性が権威の裏付けになるが、その専門性にとって代わる絶対計算が登場すると、権威は霧消してしまう。そのため、絶対計算を敵視する医師は少なくないので、EBMがなかなか浸透しないという状況が生まれている。
このように絶対計算は絶対的な能力がある一方で、現在の専門性（＝権威）を根底から無くしてしまうので、反対勢力が登場し、結果なかなか浸透するのが難しい。とはいえ、これはまあ時間が解決してくれることだろうと楽観的に思ったりもする。
むしろ、絶対計算の今後で問題になるのは、その計算結果が果たして正しいかどうかだ。絶対計算同士が衝突する事態が起きつつある。
データに基づく意思決定の台頭は、きちんと監視しなければ（内部的または外部的に）、まちがった統計分析の洪水を生み出しかねない。
絶対計算には強力な威力があるがゆえに、その使い方、管理の仕方、統御のあり方がこれからの課題になるのだろう。
そして、この本を読めばきっとみんな絶対計算をしてみたいと思うだろう。そのためには、まず、本書にあるように2標準偏差ルール（Two Standard Deviation＝2DS）とベイズ理論についてしっかりと理解するところからスタートしないとね。
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（感想文の感想など）
最近は、EBPM（Evidence-based Policy Making：エビデンスに基づく政策立案）が話題になっている。
EBPMがPBEMに？～種苗もコロナも、データに基づいた議論の重要性～では、PBME＝Policy-Based Evidence Making（政策に基づいた証拠づくり）になってはいけないとなかなかに上手いこと言ってくれている。得てして為政者側に都合の良い根拠だけが示され、都合の悪い真実は抹消されてしまう。
EBPMを実施するためにはデータのオープンアクセスを進める必要がある。都合の良いデータから都合の良い解釈が導き出されるのはEBPMではない。とはいえ、政府がそういうことをするかというと全く信じられないんだよね。いやいや日本だけに限ったことではなく、どこの国でもEBPMが機能するとはあんまり期待できないんだよね。
