40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文22-28:世界の見方が変わる元素の話

元素関係の本だと名著である炭素文明論(感想文14-11)がある。この本の主役はもちろん炭素だったわけだけれど、今回感想文を書いている本は多くの元素たちみなが主役だ。

著者のティム・ジェイムズさんは、

高校で科学の教師として働くかたわら、ユーチューバー、ブロガー、インスタグラマーとしても活躍。

とのこと。日本だと「でんじろう」さん的な感じだろうか。

ちなみに原題はElemental: how the periodic table can now explain (nearly) everythingとなっている。直訳すると「元素:周期表が(ほとんど)全てを説明できるわけ」くらいだろうか。

本書はサイエンスとケミストリーに関わる話題をたくさん提供してくれる。私が知っていることももちろんあるけれど、なるほどそういうことだったのかとか、それは知らなかったということもたくさん載っていて楽しい。

例えば、

アメリカでよく使われるファーレンハイト度(華氏、°F)は、ダニエル・ファーレンハイトによって考案された。ファーレンハイトは塩と氷の混合物を利用して、人間の体温までのメモリを刻んだ[塩と氷の混合物の温度を0度、人間の体温を100度とした]。(p.69)

そうだったのか。調べてみると華氏0.0度=−17.8℃、華氏32.0度=−0.0℃、華氏212.0度=100.0℃。ややこしいな。とはいえ、考案された背景を知れて良かった。使わないけれど。

私たちのエネルギーの源である太陽は、超大質量ブラックホール「いて座A*(エースター)」のまわりを回る数千億個の恒星のひとつにすぎない。(p.77)

宇宙のスケールを数字で示されると圧倒される。太陽は地球にとって特別な存在だけど、宇宙から見ると特別な存在ではない。さらに

宇宙にある恒星の数は、と問われて答えたら、笑いが起こるかもしれない。いちばん少なく見積もって、地球に近いところだけでもおよそ1京個。(p.78)

万億兆京の「京」。10の16乗。1のあとに0が16個つく。1億円の入ったトランクが、1億個あったら1京円になる。想像できない。地球に近いところだけで少なく見積もって1京個も太陽に相当する星が存在するのだ。気が遠くなる。

1912年、アメリカの科学者、ウィルバー・スコビルが、食品の辛さを数値化する方法を考案し、現在もその方法が採用されている。辛みを有する化学物質を水にとかして何度も希釈していくと、ある段階で被験者が味を感じなくなる。そのときの希釈倍率をスコビル辛味単位(SHU)として辛さを測定する方法である。(p.88)

知らなかった。有吉ゼミの激辛チャレンジグルメでも出てくるスコビル値。どうやって辛さを定量化しているのか不思議だったがそういうことか。痛さの尺度であるシュミット指数よりはブレが少なく再現性がありそう。辛いのも痛いのも嫌だけれど。

本書はいろんな元素が登場する。どの元素も大事で、社会を変革してきた。銀(より正確には銀塩)が写真に活用され、さらには映画へとつながり、現在はデジタル化されたものの、人々に情景や動画を共有する文化を担っていった。塩素は水を清潔に保つことに貢献し、衛生を大きく向上させ、人間の寿命を延ばした。

世界をつくった6つの革命の物語(感想文17-10)とも似ており、私にとってはこういった説明の方がすんなりと歴史を理解できる。誰がどうしたではなく、どんな技術が世界を変えたのか、あるいは世界の認識そのものをどのように技術が変えたのか、その観点の方がはるかに興味深い。

ただ、そんなユニークで、世界の見方を変えていった元素のなかにも、あれ?こいつは要らないんじゃない的な元素も存在している。

ここではっきり言おう。ジスプロシウムは人類の歴史から取りのぞいても、いっさい何も変わらない唯一の元素である。周期表で最も面白みのない元素であるジスプロシウムに敬意を表する。(p.229)

原子番号66、元素記号はDy、希土類元素レアアース)だ。残念ながらウィキペディアにも『他の元素で代替できない用途は比較的少ない。』とある。人類にとって存在感が乏しいDyだが、まだわからない。どこでいつ花開くかわからない。人類の危機にDyが颯爽と登場し、大活躍する未来が来ないとは誰もわからないだろう。

誰もが本書を通じて科学と化学を気軽に接することができる。あなたも是非、周期表を眺めながら、本書で元素を学び、世界の見方を変えてみてはどうだろうか。