40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文10-22:貧困を救うのは、社会保障政策か、ベーシック・インカムか

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※2010年3月19日のYahoo!ブログを再掲。

 

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ぼくが貧困を国内問題として認識するようになったのは、つい最近のことのように思う。池袋定点観測小説である、池袋ウエストゲートパークでは、たびたび格差社会について取り上げられるようになった。

とはいえ、実際に貧困を感じる機会は日常生活で多くはない。貧者は透明人間であり、意識しないとその存在を感知することは難しい。

本書は、橘木さんと山森さんというベテランと新鋭の経済学者による対話で構成されている。中身の見た目は、経済ってそういうことだったのか会議(感想文09-67)とそっくり。まあ、読みやすい。ところが違いは、両方とも経済学のプロなので、どっちがどっちの発言か分からなくことが多々ある。この現象は、ぼくたちが聖書について知りたかったことでも起きた。

タイトルとは異なり、両者の立場が割と近いことがその原因だと思う。ぼくは経済学の素人だからあくまで印象的なことしか言えないけれども、二人が学問的には厳密に対立しているのだとしても、求めている目標に差はないのだろう。

最近、ベーシック・インカムがちょっと話題になっている。そういうことが気になって気軽に本書を読んでみた。なるほど経済における制度設計の面白さがよく分かる。こういう大きな話って単純に面白い。インセンティブを与え、国民を誘導することにつながる。政治問題と切り離すことはできないのだろうけれど、世の中を変える具体策についてあれこれ思索を巡らせるのは、知的には気持ちの良いことだ。実際に扱っているテーマは重いのだけれど。

本書では貧困をメインに扱っているが、そこに派生する諸々の問題についても興味深い議論が行われており、その中でも重要なファクターの一つは働き方だろう。

同一価値労働同一賃金の原則が印象深い。例えば、派遣社員と正社員が机を並べて同じような仕事をしているのに、そこには厳然として給与の格差がある。ほかにも、窓際に座っているだけの出世ルートから外れた課長クラスの方が、必死に働いている係員よりも遙かに多くの給与を得ている、ということがある。

この原則は、同一の価値のある労働には、同一の賃金を払いましょうというもので、多様な雇用形態とか年功序列制度に真っ向から対立する考え方だ。とはいえ、何を持ってして同一の価値と判断するかは非常に難しい。労働の価値を測定できる、あるいは少なくとも比較することができるという、やや無邪気な前提で成り立っているのであって、結局は労働の細分化やカタログ化を生み出すのかもしれない(現実で既に起きてしまっているから、たいした問題ではないのかもね)。

しかし、普段働いている中でどうしても感じてしまう矛盾(ぼくはこんなに働いているのに、何であいつよりも給料が安い)を解消するための大切な考え方になるかもしれない。ぼく個人としては年俸制の方が気楽なので、できればそうして欲しいんだけれど…。

さて、本書の主役でもあるベーシック・インカムだけれど、新鋭の山森さんの主張は明確だ。国民全員に一定の生活できるくらいのお金を払うというもの。財源は税金。

こういう話だけを聞くと、ぎょっとする人もいるかもしれない。じゃあ、働かなくっても良いんじゃないか、社会主義だ、ってね。まあ、ベーシック・インカムへの批判はこういうことだし、直感的に誰しもがそう感じる。

とはいえ、ベーシック・インカムの基本哲学を聞かされると、悩んでしまう。それは、条件付き生存権を認めるかどうかってこと。つまり、社会保障制度(生活保護とか)では完璧に助けきれないので、それだったらとにかく全員助かる方法を採択しましょう、全ての人の条件無しで生存権を認めましょう、ってこと。

なかなかに深い。単なるお金のバラマキとは全然違う。なるほど「働かざる者食うべからず」は、「働けないヤツは死ね」に等しいということか。より正確には、働けないからという理由で死んでしまっている人がいますが、本当にそれで良いんですか、ということ。

これは資本主義と真っ向から対立するように思う。何度も(ぼくが好きな)ウォーラーステインを引用するけれど、「資本主義とは、資本蓄積だけが目的」なのだ。資本を増やすために、イデオロギーを生み出し、差別を生み出し、たぶん、生存権への様々な条件も生み出した。

ベーシック・インカムは、新しい世界の統治の在り方かもしれない。でも資本主義は今のところ最強(最恐、最凶、最狂?)なので、ベーシック・インカムの仕組みも飲み込んでしまうかもしれない。

今度は山森さんの御本を読んでみよーっと。

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(感想文の感想など)

2017~18年にフィンランドで、2019年~はカリフォルニア州ストックトン市でベーシック・インカムの実証実験が開始されている。

私はベーシック・インカムに賛成でも反対でもない。よう分からんのだ。とはいえ、この本を読んでから10年近く経つのだけれど、ようやく資本主義や経済成長に疑問符がついて、このままで良いのかというのが議論されるようになってきたかな。