40代ロスジェネの明るいブログ

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感想文13-31:夫婦格差社会 二極化する結婚のかたち

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※2013年5月30日のYahoo!ブログを再掲。

 

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課題解明の経済学史(感想文13-13)に続く、橘木俊詔さんの経済学に関する新書。テーマはタイトルそのままで夫婦格差について。

本書の関心は、格差のなかでも「夫婦間の格差」、すなわち高所得を得ている夫婦と低所得に苦しむ夫婦との間の格差に置かれている。

既に30代なかばになり、周りの男性女性の多くは結婚している。自分が小さかった頃、つまり子どもの目線から友だちの家庭を眺めると、確かに裕福な家庭も貧しい家庭もあったけれど、今ほど多様でなかった気がする。

ドラえもんにしろ、サザエさんにしろ、ちびまる子ちゃんにしろ、クレヨンしんちゃんにしろ、祖父母の存在といった家庭の規模に違いはあるにせよ、すべて夫が働き、妻が専業主婦をしている。

現実世界では、夫が働いている/働いていない×妻が働いている/働いていないの4とおりだけでなく、働いている項目も正規労働/非正規労働にわかれる。それだけでパターンは9とおりに増大する。

とはいえ、実際に私が目にする範囲の家庭の様相は限定的だ。保育園に通う子どもの家庭は、夫婦共働きかシングルマザーかである。現在、保育に欠ける児童が保育園に行くので、まあ、そうなってしまう。とはいえ、大きな声では言えないけれど、共働き家庭とシングルマザー家庭では、かなりの所得格差があるだろう。

格差社会というのは、個々人の雇用形態だけでなく、その先の結婚、出産、子育てに至る夫婦(破綻してしまう夫婦も含む)の格差について、日常的に考えさせられる状況になっている。

もともと気になっていた現象であったので、本書を興味深く読むことができた。学歴、雇用形態、地域などなど、様々な観点から実証的に示されており、面白い。大事だと思う箇所を挙げていこう。

私たちの仮定はこうである。今や夫の所得額とは無関係に、妻は働くか働かないかを決定しているのではないか。(中略)このことは家計所得の格差拡大を促すので、日本社会の格差拡大を説明するひとつの要因となっているのかもしれない。

この仮定には直感的に賛同する。そして、本書では実際に様々なデータやこれまでの研究結果を示し、夫婦格差を示している。

夫の所得の高さと妻の有業率との相関はほとんどない。つまり、夫の所得の高低が、妻が働くか働かないかの決定にほとんど影響を与えない時代になっていると結論づけられる。

夫が高収入だから妻は働かないというわけではない。逆に夫が低所得だからといって妻が働きに出るというわけでもない。妻が家庭の収入を調整する機能を果たしておらず、夫婦とはいえ、それぞれの労働についての行動への影響は少なくなっているようだ。

もっとも多い夫婦の組み合わせは、いまだ「夫高所得・妻無業」の組み合わせだという事実にも注目する必要がある。このことは「ダグラス・有沢の第二法則」がまだ完全には消滅していないことを示している。

確かに周りでも「夫高所得・妻無業」という夫婦はいる。しかし、典型的なモデル家庭というほどのマジョリティではなくなっているだろう。

年をとるとともに、非正規労働者は結婚せず、正規労働者は結婚するという格差が現れている。(中略)結婚には雇用の安定が見込めて収入がある程度ないと踏み切れないのだ。

自分のことを思い出すと、結婚した当時は、私自身は非正規労働者だった。妻は正規労働者だった(現在でもそう)。結婚できたのは、やはり妻が正規労働者だったことは大きいだろう。転職して、正規労働者になった際に、面接で覚えているのは、会社側としては結婚しているという事実をもって、社会的にこいつはマトモである蓋然性が高いと判断したことだ。

つまり、非正規だから結婚できないということもあるだろうけれど、結婚してないから非正規のままということもあるかもしれない。この点は、わりと面白い仮説かも。どなたか実証しませんか。

1980年時点で男性2.6%、女性4.4%であった生涯未婚率は、2010年時点では男性20.1%、女性10.6%にまで高まっている。(中略)一人の男性が複数の女性未婚者と結婚する結果、あぶれる男性が生まれるのである。

思った以上に男性が高い。5人に1人は生涯独身だ。そして思った以上に女性が低い。結構、周りで妙齢で未婚の方が多いんだけれどな。確かに男性が再婚して、未婚女性と結婚するために、男性があぶれるということがあるんだろう。男性が結婚できない原因は、本人以外の男性にもあるのだ。

ここで筆者は大胆なことを主張したい。低い賃金しか出さない企業を、低い最低賃金によって保護するよりも、それらの低生産性の企業は市場から退出してもらい、高い賃金を出せる高生産性の企業に新規参入してもらう、という案である。

経済学に何ができるか(感想文13-25)で書かれていたように、最低賃金は労働の買い叩きを避けるために機能している。筆者は確かに大胆なことを言っている。景気が悪く、働き口が少ないと、どうしても労働者の供給が増え、賃金は低下してしまう。企業の生産性だけのことではないのかなと思うが、国の介入が必要なことなのかもしれない。

実際には、離別した父親から養育費を受け取っている母親はわずか19.7%にすぎない。(中略)母子世帯の8割は離婚が原因で母子世帯になっている。離婚後の所得移転や所得保障としての養育費制度がうまく機能していないため、離婚した母子世帯は貧困に陥る。それが現実である。

このことは初めて知った。離婚した芸能人やスポーツ選手の養育費がべらぼうに高いことはニュースになるが、実に8割以上が養育費をもらっていない。そりゃあ、貧困に陥ることは簡単に想像できる。

本書は、定性的にそうではないかなと思っていたことについて、定量的にわかりやすく一般の方に示したという点で、価値が高い。

正規雇用で、結婚できず、一生独身で終わる男性。デキ婚したものの、離婚し、養育費ももらえず、貧困にあえぐ女性。低所得や貧困の問題の背景にある、結婚、出産、子育てについて、身近な関心事として知ることができた。

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(感想文の感想など)

大事なことなので、もう1度、引用しておこう。

低い賃金しか出さない企業を、低い最低賃金によって保護するよりも、それらの低生産性の企業は市場から退出してもらい、高い賃金を出せる高生産性の企業に新規参入してもらう

低い給料しか出せない企業は、労働市場から出ていけ!というのは、大胆ではあるが、今となっては真剣に考える価値のある提案だ。

労働契約法改正による無期転換や働き方改革などで、労働者の環境は大きく変化しつつある。これが生産性向上に繋がっているかというとどうだろうか。このあたりの実証研究を待ちたい。

それから生涯未婚率はさらに上がっている。息子たちは結婚できるだろうか。孫の顔は見れるだろうか。