40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文15-36:イスラーム国の衝撃

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※2015年10月6日のYahoo!ブログを再掲。

 

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※ここでは本書のタイトルにならってイスラム国ではなくイスラーム国という表記で統一しています。

イスラーム国に関するニュースは毎日山のように流れている。殺害とか処刑とか爆殺とか、とにかく凄惨で残酷で暴力的なものばかり。

しかしながら、イスラーム国とは何で、ISISとは何で、タリバンが何でとかさっぱり分かっていない。とにかく危険な地域があり、暴力集団がいて、宗教があり、きっと穏健派もいるんだけれど過激派が目立ち、イスラームというだけで拒否反応を示すのは良くない思いつつも危うきには近づかないでおこうというところでいつも思考が終わる。

あまりに知らなさ過ぎるのも社会人としてどうなのかなと思うに至り、とりあえず本書を読んでみた。

いつものように気になる箇所を挙げておこう。

「カリフ制が復活し自分がカリフである」と主張し、その主張が周囲から認められる人物が出現したこと、イラクとシリアの地方・辺境地帯に限定されるとはいえ、一定の支配領域を確保していることは衝撃的だった。

カリフ制とは、ウィキペディアによると『預言者ムハンマド亡き後のイスラーム共同体、イスラーム国家の指導者、最高権威者の称号』とのこと。イスラーム国では、アブー・バクル・アル=バグダーディー(長いし、そもそも本名ですらないかもしれないらしい)が指導者であり、カリフを名乗っている。そして、私は知らなかったけれど、土地を支配している。よって、実質的に国みないなものになっている。これが衝撃ポイント。

イスラーム国」は、イラクとシリアの特定の地域において幅広い領域支配をしており、イラクとシリアの政治的文脈の中で政治勢力としての地位を確保しようとしている。(中略)「テロ組織」としての存在を超え、自らが領域を実効支配し、社会を統治して、自らの理念に従って秩序を作り出す存在へと変わろうとしているのである。

ということで単なる暴力装置たるテロ組織ではなく、土地があり、国民がいて、ある程度の秩序を形成した国として機能している。

アラブの春」は、最終的な帰結が少なくとも四半世紀を経なければ判定されえないような、根本的な構造変化を促しているように思われる。「イスラーム国」の出現もそのような大きな変化の一部にすぎないと考えておいたほうがいいだろう。

そういえば、3.5年前に<アラブ大変動>を読む(感想文12-10)でアラブ事情をちょっとキャッチアップしていたんだった。まだアラブの春の帰結が分かるまではまだ20年以上はかかるということか。それだけ大きなことだったということ。

戦闘員らは、金銭的な代償よりも、崇高なジハードの目的のために一身を犠牲にするつもりで、あるいはそのような高次の目的に関与することに魅力を感じて渡航している、という基本を押さえておく必要がある。

私が最も共感できていないのがこのポイント。どうして自らを犠牲にしてまで自爆テロができたり、あるいは誰かを犠牲にすることができるのだろうか。それだけ大きな価値があるということなのだろうが、自らを犠牲にするほどの価値があると思えるような、そういう行動に仕向けさせるような教義になっているのが、イマイチよく分からない。

日本において「イスラーム」は、「ラディカル」に現状超越を主張し、気に入らない社会やエスタブリッシュメント、そして体制そのものを勇ましく「全否定」してみせる「憑代」として一部で受け入れられてきたのである。

憑代(よりしろ)という表現が興味深い。私の周りにイスラームにハマっている人を見たことがない。でも、こういうラディカルな全否定というスタンスにハマるという心理は分からなくもない。でも、かといって自身を犠牲にしてまでとなると、やっぱり理解できない。

「1991」に確立された米中心の中東秩序に挑戦したのが「2001」だが、それに対する対テロ戦争の追撃を受けて世界に拡散した過激思想と組織が、米国の覇権の希薄化と「2011」の「アラブの春」をきっかけに、「イスラーム国」という形でイラクとシリアの地に活動の場を見出した。それが「2014」という新たな画期である。

1991年に湾岸戦争が起こり、2001年に米同時多発テロが起こった。そしてまたその10年後にアラブの春が起こり、現在イスラーム国建国という流れになっている。事件や出来事を単純に追っても見えてこない、その背景が、本書を読んで少し見えてきたような気がする。

日本にいるとイスラーム国の事情はほとんど理解できないし、理解しようとする気持ちも起きてこない。私もたまにこういう本を読んで、ちょっと考えてみるだけだけれど、それでも少しずつ考えていきたいと思う。

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(感想文の感想など)

2001年に米国同時多発テロ、2011年にアラブの春。ということは、来年2021年にもイスラーム国で何かが起こるかもしれない…。