40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文09-60:国家の罠

 

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※2009年10月1日のYahoo!ブログを再掲。

 

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05年に発表された本書。結構前から読みたいなと思っていたら、文庫化していたので購入。

図書館で借りた本と同時並行的に読んでいたので、読み始めから読み終えるまでに結構時間がかかった。

国策捜査」という言葉がある。ウィキペディアから抜粋すると、『政治的意図や世論の動向に沿って検察(おもに特捜検察)が「まず訴追ありき」で捜査を進めることをいう』とある。

国策捜査という耳慣れない言葉が市民権を得たのは、本書に依るところが大きい。三井環事件(告発!検察「裏ガネ作り」(感想文08-54)参照)も国策捜査の一つとのこと。

時代のけじめとして国策捜査が必要と考える検察側の西村検事と、裁判により外交機密が漏えいし国益が損なわれないように奮闘する佐藤優氏のやり取りが非常に面白い。

ぼく(たち)の知らない世界が克明に記されており、読み応えがある。ロシアで信頼されるにはどうしたらいいか。ロシアとイスラエルの関係。田中真紀子鈴木宗男の対立。拘留中での情報収集の方法などなど。

時代には流れがある。たぶん。でも今がどういう流れにいるのかはなかなか掴めない。この事件の頃は、小泉政権時代で、ケインズの平等主義からハイエク自由主義へと、日本は大きく舵をきっていて、その時に邪魔だった著者と鈴木宗男氏が逮捕され、時代の変革におけるけじめの一つとなったと、著者はこの国策捜査をそのように位置づけている。

今、もう一度日本は舵を戻そうとしている。政権は交替し、小泉氏は引退し、自民党はすっかり落ちぶれた。この国策捜査はいったい何だったんだろうか。

ウィキペディアによると

05年2月:東京地裁で執行猶予付き有罪判決(懲役2年6ヶ月 執行猶予4年)を受け控訴。

07年1月:東京高等裁判所は一審の地裁判決を支持し控訴を棄却。

09年6月:最高裁判所上告を棄却。期限までに異議申し立てなく、判決が確定。国家公務員法76条では禁錮以上の刑に処せられた者は失職すると定められており、これにより外務省を失職。

とのこと。

執行猶予がついたので、悪いことをしなければ普通に生活できる。著者は多くの書籍を発表し、論壇(というものがあるのか?)を賑わせているとのこと。

そして本書を読めば、ものすごく格好良く思えてくる不思議な人物である鈴木宗男は、09年の衆院選でも見事に当選を果たした。

今年の9月頭に北海道へ家族旅行に行ったけれど、宗男人気はすごいものがあった。中央政府によるドライな自由主義への強い反発が北海道を始めとする地方から起きているのかもしれない。

経済についての分析は、正直、ぼくの身に余る。ウォーラーステインが主張する(史的システムとしての資本主義(感想文09-56)参照)ように、資本主義は単に資本の蓄積をはかるものであったとしたら、資本主義というルールで世界中が資本蓄積ゲームにいそしんでいるのだとしたら、自由と平等の二項対立で揺れ動くのは、愚かなことなのかもしれない。

インターステイト・システムに組み込まれてしまっている以上、特定の国(例えば日本)がちょっと方針を変えることには、あんまり意味がないのかも知れない。

経済の話しはこれくらいにしておこう。

本書でもう一人の主役ともいえる鈴木宗男氏は外務省に相当の恨みを持っている。同氏による執拗な質問趣意書攻撃を見ればその恨みの深さが分かる。

疑惑の総合商社などと批判され、起訴され、落選したが、再び当選した。まだ裁判は継続中だ。時代の潮目が変わり、最高裁判決はどうなるのだろうか。

そして、09年9月に鈴木宗男氏は「外務委員長」となった。

この国策捜査はまだ終わっていない。時代にけじめをつける前に、その時代が変わってしまったのだから。

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(感想文の感想など)

今、「国策捜査」とグーグル検索すると、予測候補として、「日産」と「ゴーン」が出てくる。

日産の事件については、はっきり言ってほとんど何も知らないので、書きようもないが、ゴーン氏が日本からレバノンへと逃亡したのには驚かされた。

この事件が落ち着いたら、きっと誰かがまとめた本を書いてくれるであろうから、それを読むことにしよう。