40代ロスジェネの明るいブログ

2020年1月11日からリスタート

感想文16-33:科学者と戦争

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※2016年10月11日のYahoo!ブログを再掲。

 

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著者の池内さんの本を以前、読んだことがあったなぁと思っていたら、物理学と神(感想文09-10)だった。もう7年も前かぁ。

さて、本書は以前から気になっていたことについて、非常に明瞭な道標を掲げてくれた。安全保障技術、防衛目的研究、デュアルユース、研究成果公開といったことについて、一時期考える機会があった。結局は、もやもやしたまま、終わってしまったのだけれど。

今さらではあるが、日本の大学や研究機関を取り巻く環境は激変している。あえて極端にいうと、カネがない、これに尽きる。カネがないからどうするか、オープン・イノベーションという言葉にかこつけて企業から取ってこいということになる。

産学連携について疑問を持つ教員や研究者はもはや希少種になっている現在において、さらに世の中は進もうとしている。どこにか。それは軍学共同ではないかと著者は警鐘を鳴らしている。

産学連携と軍学共同は全くの別物だと思っていたが、研究費に窮している研究者からすると、新しいパトロンという意味ではたいした違いはないのかもしれない。

ということで気になる箇所を挙げておこう。

問題となるのは軍から研究資金を供与される場合で、私はそのような研究は、いかに基礎研究に見えようと、将来必ず軍学共同につながるので行うべきではないと考えている。(中略)研究テーマがデュアルユースであるかどうかを直接問うのではなく、ファンディング機関からの資金で行う研究が民生研究、軍からの資金で行う研究が軍事研究、という研究資金のソースの問題だとすれば簡単に割り切れる。

本書で最も重要な著者の考えを示している。そして私もこの主張に目からウロコであり、全くもって賛同する。デュアルユースどうこうというのは、結局は軍事研究をするための言い訳でしかない。しかし、現実は世知辛い。

研究者は研究費という「経済的理由」で、軍事研究という「徴兵制」に応じようとしているのである。

お金が無いならうちで工面しましょうか、と誘い込まれる。軍事技術ではないですよ、これは安全・安心に資する技術開発ですよ、研究成果は原則公開ですよ、と甘言を囁く。こうして心理的ハードルを低くして、お金をチラつかせて、じゃあやってみようかなとその気にさせる。これを著者は、『研究者版経済的徴兵制と呼んでいる。

それでは軍事研究(あえてこう書く)に踏み出した研究者はハッピーなのだろうか。

軍事研究の空しさの最大の要因は、その研究内容のみならず、自分の存在そのものが「軍事機密」という点にある。(中略)人が驚くような新発明をしても、誰にも語れないのである。 

研究成果を公表し、親しい分野の研究者と交流し、さらに研究を深め進めていく。そういう研究者としての活動はできない。同僚と研究について居酒屋で話したり、家族に自分の仕事を話すこともできない。軍の仕事とはそういうものだ。戦艦武蔵(感想文12-13)を思い出す。軍の機密という理由だけで極めて厳しく不条理に監督されるのだ。

科学が軍事や戦争と直接関連することはなく、歴史的にも軍事研究が新たな原理や法則を発見する契機となったことはない。(中略)軍事研究が発展させるのは<科学ではなく>技術であることをまず強調しておきたい。

戦争は発明の母という言葉があるが、著者は真っ向から否定する。確かに軍事研究から民生利用に発展した技術はあるが、母となったのは、戦争ではなく、必要なのだ。そして戦争は厳密な意味での「科学」には貢献していない。

科学研究者はいったん戦争に関与すれば有力な「戦力」となるという事実であり、そのことを強く意識して自らの倫理責任を考えねばならないということである。

経済的徴兵制によって科学研究者が戦争に関与していく。彼ら彼女らは極めて有力な戦力として期待されている。そして研究費に困窮している。経済的徴兵制から逃れる術はあることにはあるがあまり現実的ではない。他のパトロンを探すか、研究費のかからない研究分野に転向するか、あるいは研究者を辞めるか、それくらいしかない。

軍事研究という悪魔に魂を売ってまで研究を進めるのか、突き詰めればそういうことだ。生活に困ったから、泥棒したり誘拐したり銀行強盗したりするかということと本質的には変わらない。安全保障やデュアルユースや民生利用といった言葉は本質から目をそらすために生まれたものでしかない。

自分の心にある大事なものをカネなんかのために捨ててはいけない。とまあ、綺麗事を言っているが、そういう高潔さを貫ける人は僅かだろう。

軍学共同による軍事化路線に日本は進むのだろうか。私は未だに分からない。この世界がどこへ進もうとしているのか。どこへ進むべきなのか。互いに殺し合い、環境を破壊する、これがヒトの本質なのだろうか。

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(感想文の感想など)

つい先日、こんなニュースがあった。
 

軍事利用が明らかな研究を中止せよ 筑波大へ池内さんも呼びかけ人の一人だ。
記事によると

防衛装備庁安全保障技術研究推進制度Sタイプ(大規模研究課題、5年間で20億円以内の供与)の2次募集に応募し、採択された。制度が発足した2015年以来、Sタイプに採択された大学は貴学が初めて。

とのこと。

外部資金で20億円は大きい。間接経費は大学側にとっても有り難いことだろう。
採択されたものを、やっぱり中止します、というわけにはなかなかいかないだろう。筑波大学が嚆矢となり、心理的なハードルが下がり、軍事と大学が癒着し、切り離せなくなるかもしれない。