ベルギーのピルスナーは「生理的な欲求を満たすビール」である。(中略)それ以外のエール系のビールは「情緒的な欲求を満たすビール」です。(中略)そのアルコールは、身体ばかりでなく心も酔わせます。
そうなんだ。夏場にごくごく飲みたいのは、まさに生理的な欲求から。ところが、エール系のベルギービールは、情緒的な欲求を満たすビール。ピルスナー系で喉を潤してから、改めて情緒的に味わいたい人に適している。
貯蔵によって風味が磨かれる、あるいは変貌するビールは、ベルギーに珍しくありません。
普通のビールではありえない。ベルギービールだからこそ、ワインやウイスキー(感想文10-13:ウイスキーの科学参照)のように時間によって磨かれることがある。
北部のオランダ語圏はフランデレンと呼ばれ、南部のフランス語圏はワロニーと呼ばれています。ビールの傾向としては、フランデレンで造られるものがどちらかというとフルーティーさや麦芽の香りを重視し、ワロニーのものは強いて言うとスパイシーさと口当たりの軽さを大切にしているように思われます。(中略)フランデレン・ビールとワロニー・ビールは、ベルギービールを形成する二大潮流といってもいいのです。
ということで、ベルギーは言語的に民族的に南北に分かれている。ひとつの国なのに言葉が通じない。それぞれにプライドがあり、譲ろうとしない。そういう状況は何を生み出すか。言語以外のコミュニケーション方法だ。
ベルギーの人々は、北部と南部の間で言葉がコミュニケーション機能を持たないからこそ、絵画の持つ豊かなイメージ性とメッセージ性を大切にしている。そのように考えると、ベルギービールのラベルが絵画的表現手法でデザインされている理由も、なるほど納得できるわけです。
うーむ。ベルギーでは絵画が発展した。その姿をベルギービールのラベルを通じて知ることができる。また、ラベルを通して、ベルギーという国の苦難を知ることもできる。
ベルギーは、その歴史の始まりから独立まで、ずっと異邦人の支配下に置かれてきました。ローマ帝国、フランク王国、オーストリア(神聖ローマ帝国)、イスパニア、フランス帝国、オランダ王国と為政者は代わっても、もとから住んでいる人々の主権はいつも無視されてきました。
常に異邦人の支配下に置かれたベルギー。だからこそ主体性の喪失は、個性的なビールを生み出した。戦乱の歴史は、アイロニカルな基質を育んだ。銘柄の名称が「悪魔」とか「ギロチン」とか不穏当なネーミングセンスは、マネケン・ピス(小便小僧)の国ベルギーに合致している。
ベルギーに、ドイツともイギリスとも違う、個性的で魅力的なビールがあることが知られるようになったのは、1957年にベルギーがECに加盟してからです。(中略)本部はベルギーのブリュッセルに置かれることになり(中略)その結果、ベルギーがヨーロッパの中心地となり、(中略)多くの外国人がベルギービールと出会い、そのほとんどが虜になったのです。
ECの本部がブリュッセルになって、ベルギービールの知名度が格段に上がったんだ。
さいごに本書のこの文章で締めくくりたい。
ベルギービール・・・、まさにビールの芸術品です。ドイツとイギリスがビールの本場であるならば、ベルギーは「偉大なビール芸術国」といってもいいでしょう。
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