※2017年1月28日のYahoo!ブログを再掲
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下町ロケット(感想文11-59)の続編。久しぶりに池井戸潤さんの小説を読んだ。
前作は原作を読み、ドラマを見た。中小企業である佃製作所で奮闘する経営者の姿と、小説では珍しい特許紛争が描かれていることが印象的な作品だった。本作もドラマ化されたが、原作を読んでなかったので、あえて見なかった。今は無性にドラマを見てみたいんだけれど…。
本書のガウディ計画とは、新しい人工弁の開発のことで、佃製作所が得意とするバルブシステムのノウハウが活かされる新規事業だ。
本書では、社会問題としてデバイスラグを取り上げている。Weblio辞書によると『海外で開発された最先端の医療機器が、日本で承認されるまでに生じる、時間の遅れを意味する語』とある。
なぜその時間差が生じてしまうのか。本書では2つの原因を挙げている。一つが許認可側である行政の怠慢の問題。事なかれ主義の役人が安全性を過度に確認するため審査期間が長くなってしまうというもの。
もう一つが、メーカー側の意欲の問題。医療機器で問題が生じた場合に対処しきれないので開発に取り組まないというもの。
デバイスラグは今もなお日本で大きな問題となっているかどうかについて、あいにく私は見識を持ち合わせていないが、適切な審査時間と安全性確認が両立できるところを目指すほかなく、そのための補助金や審査員の強化など、行政もメーカーも両者が行動を変えるインセンティブが必要だろう。
本書で印象的だったのは、経営者である佃航平の成長ぶりだ。修羅場を越えてきたためか、人として経営者として一回り大きく成長したように思える。こういう人の下で仕事ができるのは幸せなことだろう。
そして、医療機器が世にでるためにはたくさんの壁があるということも思い知らされた。産学連携、医工連携、規制と許認可、医師と患者、組織間の調整、研究開発能力、事業化、資金。一つでも歯車が狂うと、頓挫してしまう。非常にか細く険しい道を渡りきれるのは極めて幸運な事例であり、情熱とか思いがなければ進むことはできないが、情熱や思いだけで踏破できるほど甘くはない。
「仕事に夢がなくなってしまったら、ただの金儲けです。それじゃあつまらない。違いますか」
これは佃航平のセリフだ。仕事には夢が必要だ。
池井戸潤さんの小説らしく、心の奥に灯火を点けてくれた。小さな温もりかもしれないけれど、今年は佃航平のように前向きにひたむきに生きたい。
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(感想文の感想など)
PMDAの資料によるとデバイス・ラグにおける審査ラグは解消されているらしい。
また、医療機器業界の成長性、将来性、医療機器メーカーランキングによると、日本は米国に次ぐ2番目に大きな医療機器市場である一方で、シェアは低く、21位のオリンパス、22位テルモ、27位Hoya、29位ニプロとなっている。日本の医療機器分野は輸入超過であり、ビジネスの構造上、寿命が伸びても儲かるのは残念ながら外資というのが現実だ。